「上映館が少なめなのが勿体ない佳作」福田村事件 藤崎修次さんの映画レビュー(感想・評価)
上映館が少なめなのが勿体ない佳作
当方、恥ずかしながら最近までこの福田村事件のことを知らなかった。
本作の公開や関東大震災から100年という節目にあたって、報道番組などで採り上げられたりしたのを見て初めて知った。
もしかしたら、千葉県民や野田市民であっても、そういう人が多いのでは?
ただ、歴史の片隅に葬り去っていい事件ではないはず。それくらい、衝撃的な事件だと思う。
内容的にも、事件に至る過程を描く中で澤田夫妻や井草貞次(柄本明)のエピソードを絡めることで、当時の庶民が朝鮮人に対して抱いていた感情を上手く演出している。
また、女性新聞記者・恩田(木竜麻生)をキーパーソンとして登場させるのはドキュメンタリー作品を主戦場とする森監督の矜持かな?
情報の限られた時代に新聞という媒体の世論操作に与えた影響の大きさを実感させられた。
情報網が発達した現代でも東日本大震災や熊本地震などで流言飛語が飛び交い、パニックが起きるなど人の心がいかに流され易いものかを改めて考えるのに非常に効果的だったと思う。
カトウシンスケ演じる社会主義思想家・平澤の件も当時の時代背景を知るのにサイドストーリーとして、上手く機能している。
また、全編を通してカメラアングルも寄り過ぎず、離れ過ぎず、適度な距離感が観客の物語への入り込み方を程よく誘導している。
いずれにしろ、歴史の一片の事件としてだけではなく、集団心理が間違った方向へ流された際の危うさを丹念に描いた良作だと思う。
それにしても、四六時中、軍服を着た在郷軍人会というのも、何か怖いな。
当地特有のものだったのか、日本中にそういう人達がいたのか、ちょっと知りたくなった。
井浦新の渋みも良かった。若い頃のクールなイメージから、年齢を重ねて、人情味を感じさせる役者さんへとシフトチェンジがスムーズにいった印象。