「ストーリー自体はわかりやすいけど、もう一押し欲しかったかなぁ(補足でネタバレ含むので注意)。」近江商人、走る! yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
ストーリー自体はわかりやすいけど、もう一押し欲しかったかなぁ(補足でネタバレ含むので注意)。
今年375本目(合計650本目/今月(2022年12月度)28本目)。
他の方も書かれていますが、ストーリー自体は架空のお話ですが、映画内で触れられている内容そのものは実際にあったできごとです。ただ、この映画で描かれている堂島(今の大阪市)がこの映画で触れられている方法(旗振り通信)を重視しておらず、明治時代に入ると多くの資料が(明治維新で作られた)大阪市によって廃棄されたため、現在ではその舞台となる大阪市(あるいは、大津やいわゆる近江商人の方が住む、滋賀県)でも情報は少なめで断片的にしか拾えず、その具体的な手法は復元されたものです(この方法については、一つの説としていくつかの資料を断片的に組み合わせて「このような方法であったのだろう」というものしか残っていません)。
一方でストーリー「それ自体」は架空のお話であり、また多少チープかなとは思ったものの(テレビの時代劇ドラマ並みに展開が鉄板すぎて読めてしまう)、この映画、なぜか最初に GINJI と出てくることを考えると、海外展開を想定しているフシもあります。そうであるなら、現代日本ではなく、当時の江戸時代等の内容を高度に扱っても海外の方は理解が困難になるので、日本基準でみて「内容が鉄板すぎてテレビドラマ並み」というのはあっても、全体公約数的に見てこうなったのではないか…と思えます。したがって、「歴史的に見れば」厳密にいえば正確ではない部分もあるものの、全く無茶苦茶でもないですし、仕方がないのかな…という気がします。
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(減点0.3/一部の表現が史実と合致していない)
近江商人のいわゆる「三方よし」は今ではよくいわれますが、当時(映画内で描かれている江戸時代)にはなかった表現で、実は昭和~平成に入って出てきた表現です(昭和63年(平成元年説あり)の、小倉榮一郎氏(経済学者)が紹介した概念)。
※ ただ、「三方よし」の表現自体はこのころであるものの「理念そのもの」が当時にあった、という点については争いはありません(理念とスローガンそのものとは別の概念)。
(減点0.1/「堂島」の表現の説明がなく、事実上関西圏でしかわからない)
大阪市には確かに「堂島」という地名はあるし、今でも使われることはありますが、地下鉄(大阪メトロ)等にはなく、まして大阪の地理に詳しくないと、どこなのか…というのがちょっとわかりにくいです(最寄り駅は御堂筋線の「淀屋橋」か、四つ橋線の「肥後橋」、または「西梅田」あたりです。この3駅を結ぶ三角形の中、くらいで考えるとわかりやすい)。
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(▼参考/減点なし/映画内で触れられていない事項について)
(競合する商人対策)
・ 映画内では、堂島や大津で堂々と旗をふっていますが、このように堂々と旗を振るうと、当然他の商人も同じ趣旨で真似をしますので、当時はその旗振り通信に「秘匿性」が求められました。
このとき使われたのが、日々、数が書かれていた「台付」(だいつけ)というもので、実際に通信する数に、日々指示された数を加減算していたのです(だから、台付は店ごとに持ち出し禁止だった)
(例) たとえば「7銭」を通信したい場合、その日の「台付」が「5銭加算」であれば、通信側は「12銭」と指示し、読み手側が「7銭」と解釈する、というもの。
(旗振り通信が禁止されていた理由)
・ これは、江戸幕府自体が「このような通信手段は(地方によって使えるところと使えないところがあるから(山岳地帯では使えません)、公平性を欠く」という理由で、国レベル(幕府レベル)で禁止していたのです(だから、映画内では江戸幕府は一切でないが、禁止されていた真の理由はこちら。また、商人によっては火をたくなど火災の恐れがある方法をとるとこともあり、リアル現在でも山火事は消火が難しく、当時はなおさらであり、取り締まりは厳しかった)。
(岡山県との関係)
・ 当時、中国地方で広島県より岡山県が政治や商業でまさっていたのは、この同じ手法で、大阪と岡山(いずれも現在の地名)で通信が行われていたためです(岡山市にある「旗振台古墳」はこの跡だとされる)。
(海外の事情)
・ 実質同趣旨の「腕木通信」というものがフランスで発明され(1793年。94年説あり)、この時代と重なるナポレオン戦争では大きな意味を持ちました(ナポレオンの一つの功績として、この腕木通信のフランス国内における通信所の各地への設置、があります)。