「久々にきつかった」メイクアガール yudutarouさんの映画レビュー(感想・評価)
久々にきつかった
個人創作の延長のような形で商業ベースに乗る劇場長編アニメを作り上げる、それだけで偉業だし、その熱量も凄い、というのが大前提としてあるので、もちろんリスペクト。
しかし映画としては辛かった。ので、以下は観てない人と好きな人は読まないで欲しい。まず、普通に旧来のアニメ的な芝居をする商業アニメとしては、動きがぎこちなく、単純にクオリティが物足りなかった。今は深夜アニメでもCGでかなり奇天烈なことやってたりするので、別のフォーマットや表現でも良かったのでは、と思ったが、動きとかに関してはストーリーに乗っていけば、段々慣れてはくるので、とりあえず置いておく。
なので問題は脚本や設定、キャラクターの造形といった作品の世界観をかたちづくる諸々が、全てにおいて都合が良すぎるというところに尽きる。まず主人公の持っている巨大ラボや潤沢な資金はどこから湧いて出てきているのか不思議なんだが、遺産とか発明の特許の上がりなのだろうかと考えたとしても、そこまで無尽蔵な訳はないし、そもそも莫大な資産持ちだとしたらセキュリティが緩すぎるしで、となると自由に発明に励める高校生というキャラ立てをするための装置として存在しているとしか思えず、ギャグ漫画ならともかく、一応シリアスな展開を用意してある作品としてはそれだけで作品内でのリアリティが感じられなくなってしまった。そしてほぼ人間そのもののロボットを作るのはとんでもない発明の筈だし、物語内でもそんなことを言っている人がいたけど、その成功に対する扱いが軽すぎるのも謎で、物語世界の科学技術が一体どこまで進んでるのか分からないが、人間を創造すれば当然起こり得る周囲からの影響を、作り手側が閉じた物語を展開するために意図的にオミットさせて、物語に都合の良い状況を維持しているのがありありで、しかもそれがあまりに不自然なので鑑賞していて非常にノイズとなった。物語後半では主人公周辺の科学力だけで都市機能をコントロールしちゃうようなこともしちゃうし、この主人公、ブルース・ウェインか、というレベルで、なんでこんな危険人物がのほほんと高校生活を送れているのかも訳がわからない。そんな意味不明な世界観の中でいきなり感情を盛り上げるっぽい展開が来て、劇伴も思いっきり盛り上げに来るから、こっちはシラけて単に音楽うるさい…ってなってしまう。そして凄く気のいい爽やかな級友に幼馴染っぽいツンデレ的級友というとってつけたかのような周辺キャラクターの存在もご都合主義的で、人の感情の機微を理解出来ない欠落したキャラクターの主人公になぜこんな友人がいるのかサッパリ不明だし、ストーリーを作る上で都合がいいというだけで登場しているとしか思えない。環境も人間関係も、主人公と主人公が作る0号という少女型ロボットとの物語を語るためだけの都合の良すぎる要素で溢れているから、もうこれは何か妄想的な、もしくは何者かによって仕組まれた陰謀的な世界設定なのか、いや、そうであってくれ〜、そうでなければ理解出来ねえ〜と願いつつ観ていたが、そんなことも無く作品は終わった。人を創造することへの責任感や敬意が根本的に欠落した主人公と作品の作られた方が見事に同調しちゃっていて、これが単に個人的な作品であるならそれはそれで味だけど商業映画としてはどうなの?と感じた。
あとは親子の関係性とかパートナーに母親を求める幼児性とか、エヴァの気色悪い部分を踏襲している感じがオタクの悪しき側面全開で生理的にイヤだな、というのもあった。とはいえそんな部分もご都合主義も、今後とことん突き詰めて行けば作家性とかに見えてきたりするのかも知れないけど。とりあえず現時点では長編アニメーションを完成させたこと自体が凄いと感嘆しつつ、映画としての評価は別、というところだった。