「芸術が心を揺さぶる瞬間を捉えた貴重な作品」画家と泥棒 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
芸術が心を揺さぶる瞬間を捉えた貴重な作品
絵画を盗んだ泥棒と、被害者である画家が友情を育むドキュメンタリー。泥棒は2人組で、主要登場人物となるのはその内の1人のみ。彼はどうして盗んだのか、絵がその後どうなったのか全く覚えていないという。動機と絵の行方という謎を提示して始まる本作だが、ミステリーとしては展開しない。でも、そういうミステリー要素よりも、ある意味謎の深い人の心の問題を掘り下げていく展開となる。
写実的な画風で、心の闇をモチーフに描く画家は、様々な苦しみを抱えている。泥棒の方もその生い立ちと境遇ゆえにドラッグに手を染め、罪を犯してしまっていた。絵画と犯罪、全く異なるが、両者にとってはそれぞれの人生の苦しみを表出するための手段だったともいえる。
絵画に感動して唐突に涙を流す泥棒の瞬間をカメラは捉えている。あれほど人の心が劇的に動いた瞬間を捉えた映像は、なかなかお目にかかれないだろう。あのワンシーを観るだけでも価値がある作品だと思う。
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