劇場公開日 2023年2月23日

「映画は静止画の連続でその間は暗闇なんだ。」エンパイア・オブ・ライト 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0映画は静止画の連続でその間は暗闇なんだ。

2023年3月5日
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鑑賞方法:映画館

イギリス映画は、映像と音楽に、成熟した国の文化を感じるんだよなあ。舞台は1981年1月、憧れていたかっこいいイギリスの頃だ。だけどこの頃をピークとして、(むしろそれ以前からすでに)かの国は停滞し、文化は爛熟から下降へと。そう、激甘の熟れた果物が実を落とすように、差別や貧困や失業という社会問題が増えていく。そんな時代の、一地方の映画館を舞台にした物語。
心を病んだ中年女性と、黒人青年の交流。それはそれで、二人の心が通い合う感情の揺れ動くさまは美しくもある。だけど、なぜそう容易く(少なくと自分にはそう見えた)肉体関係を持っちゃうかなあ。そこを求めない、そういう欲望さえもない方が、物語として美しいと思うだけど、それは国民性の(もしくは単なる自分の好みの)違いなのか。相手に強めの好意をもつという感情は、性欲へとなるのか。堅い信頼由来の友情関係では満足できないのか。男と女の友情ってないのか。中年と青年の友情も、白人と黒人の友情もないのか。そのせいかな、オリビア・コールマンがいつのまにか寺島しのぶに見えて仕方がなかったのは。
そんなことを言ってるくせに、あとからさざ波のように押し寄せてくる余韻は、やはりあの映像や音楽に彩られて、美しい記憶として残っている。自分の中の美しい思い出も、こうして記憶されているだろうなあ。一瞬一瞬の静止画のように。その間が暗闇(苦い経験とか)であることを忘れたかのように。むしろ、暗闇に挟まれたからこそ、思い出は輝き、美しいのかもしれないけど。

栗太郎