「「そこだけの世界」を味わう」少女は卒業しない humさんの映画レビュー(感想・評価)
「そこだけの世界」を味わう
胸の中に置き去りにしてしまっているおもい
そんな時、人知れず揺れ動き続ける心
卒業式を明日に控えた4人の女子高校生もそうだった
それは、大切なひとへの忘れられない愛しさと哀しみだったり、すれ違ったまま離ればなれになる焦りだったり、密かに抱く複雑な感情だったり、静かに慕うおもいだったり…
それぞれのストーリーが桜の花びらのように淡く切なく、そして、どこかしなやかな強さを秘めながら舞う
…………
タイトル「少女は卒業しない」は、迫る時間を区切りにして彼女たちなりにもがき折り合いをつけつつ、自分のなかになにか大切なものをのこしていく(本能的に)ことを示すのだろうか
少女たちにとっての〝今〟は、見た目よりもまだかたくて甘くない果実をかじったときのように不本意だ
途方に暮れじれったさと困惑が積もれば、涙やため息は自然と増し、自分で自分を扱いにくいという不安定さはさらに空回りを起こす
とはいえ、大人になったって実は彼女たちと何ら変わらぬ狭間に漂うことは何度でもあるのだ
たぶんこれにゴールはないのかもしれないともおもう
でも、今だからわかる違いもある
それがどんなに眩しい記憶になる日々だったかを知らずに
そこにしかない果汁を味わうのはその時だけ
実は宝もののような感受性が対峙するその時だけ、ということ
120分の映像を前に、制服の感触や鞄の重み、校舎の匂いや黒板に書くチョークの音、体育館の空気、廊下のざわめき、みんなの表情や声が私の中にも徐々に蘇る
紛れもなく「そこだけの世界」にいたあの頃
そこで4人の少女が「ひとつの自分」を自分で越え少女から〝卒業〟=成長していく姿を母親のような気持ちでみつめるのかと思いきや…すっかり昔の自分を誰かのところどころに投影し、それを遠くからもう1人の私がみている感覚で観ていた
上着を抱きしめる頃には、そこにある温もりと香りを感じながら、少しのさみしさがたくさんの安らぎに包まれそれまでにはない何かに満たされたことに気づく
かなしいね、つらいね、わかりにくいね…でも、悩むことすらをどうか大切にしてみて…
そんなふうな言葉が浮かんできて気持ちはゆっくりと落ち着く
これもひょっとすると何かを置き去りにしてきた自分に対しての言葉だったのかも知れない
オレンジ色にゆっくり明るくなりかけた劇場で椅子がパタンパタンとなる音は、まるで〝私〟に戻る合図だった
朝井リョウさん…
あなたにはやっぱり何も隠せる気がしないよ
コメントイイねありがとうございました。おっしゃるとおり、青春時代は、当人にはありがたさがわからず、不器用で、空回り。大人になって初めて、その煌めきに気付きますねぇ誰でも。
河合優実さんはクールビューティーで好演です。イイ作品です間違いなく。ただ貸切はかえって辛かった。ありがとうございました。😊