「【”何で卒業式があるのかな、ずっと楽しい世界に居られたのに・・。”人生の節目を迎え、未来への茫漠たる不安や、母校が廃校になる事への複雑な気持ちを抱える高校生男女達の姿を、写実的に描き出した作品。】」少女は卒業しない NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”何で卒業式があるのかな、ずっと楽しい世界に居られたのに・・。”人生の節目を迎え、未来への茫漠たる不安や、母校が廃校になる事への複雑な気持ちを抱える高校生男女達の姿を、写実的に描き出した作品。】
- ご存知の通り、中川駿監督は高校生男女が馴染みのなかった"LBGT"の思考を持つ級友の存在に気付き、戸惑いながらもその事実を徐々に受け入れて行く姿を人間性肯定の立場で鮮やかに描いた短編映画「カランコエの花」でデビューを飾った方である。今作品は彼の初長編と言う事で楽しみにしていた。-
◆感想
・今作は、卒業と自らの学び舎が廃校になるという不安定な雰囲気の中、群像劇要素を絡ませながら、写実的に進む。
・級友に溶け込めないまま、卒業を迎えた内向的な作田(中井友望)は、図書室と図書の優しい先生(藤原季節)のお陰で三年間を過ごして来た。
だが、卒業式の日に映画「キャリー」について少しだけ話をし、式が終わった後に、隣の女の子と卒業アルバムにメッセージをお互いに残す。"もっと早くから色々話たかったね!"
ー そして、嬉しそうに、多数の級友のメッセージを作田が図書の先生に見せるシーン。そして、彼女が生きる支えにしていた長年借りていた本を返した時に、先生が新たに彼女が買った本と、図書室の本を入れ替えて”これは、貴女が持っていてください。”とニッコリと笑うシーン。沁みたなあ。-
・東京に進学する後藤(小野莉奈)も付き合っていた男子学生が地元の小学校で先生になる夢があり、別れる事になった事に悩んでいる。
ー だが式の後、二人は軋轢を乗り越え、学校の校舎の屋上で花火を挙げるのである。-
・軽音楽部長の神田(小宮山莉渚)は、その歌声が好きだった森崎(佐藤緋美)への恋慕があるが、それを抑えて高校三年間を終えようとしている。だが、式の後の演奏会で、森崎のゴシックロックのエアーバンドがトリを務める事になり、彼女は一計を案じる。
ー そして、森崎は皆が見つめる中、独りでステージで伸びやかで、美しい声で”Danny Boy"を歌うのである。万雷の拍手。神田はその風景を見て、嬉しそうだ。そして、彼女は誰にも聞こえないように、けれど誇らしげに呟くのである。"漸く、分かったか!"-
・山城(河合優実)は、生徒会長でもないのに、答辞の大役を任される。そして、彼女と付き合っていた駿(窪塚愛流)との調理室での、山城が作って来たお弁当を食べるシーン。お弁当の中には、万国旗が入っていて、駿は食べ終わった後に、それを楽し気にロッカーの上に掲げる。
ー そして、卒業式。彼女は名前を呼ばれても、立ち上がらない。何故なら入場の際に駿の母が彼の写真を胸に抱いて涙している所を見てしまったから・・。
漸く登壇し、涙ながらに答辞を述べる。
その後、彼女はシャツ一枚の亡き駿に”見ているだけで寒そうだから・・。”と言い自らの服を着せる。駿は夏のある日、不慮の事故で学校内で転落死していたのだ・・。
此処も、作品構成として巧くて、観ていて心に響くシーンである。彼女が答辞を任されたのは、悲しみを抱えながら高校生活の最後半を過ごした彼女への先生方の配慮ではなかったか、と私は思った。-
<今作は未来への茫漠たる不安や、廃校になる母校への未練を残しつつ、卒業して行く女子高生4人の姿を中心に、彼女達の恋人達の姿を絡めて描いた青春映画の秀作である。又、邦画界に中川駿と言う俊英が現れた事実を素直に喜びたい。>