「侮ってはいけない」FALL フォール luna33さんの映画レビュー(感想・評価)
侮ってはいけない
評価が意外に(?)高いのでとりあえず観てみるかという感覚であり、ちょっと失礼な話だが観る前も「まあそれなりの映画かな」と勝手に想像していた。ところがいざ始まってみるとなかなか面白いではないか。傑作とまではいかなくともいわゆるワンシチュエーションものとしては非常に出来ていると思う。
ストーリーも多少荒っぽい展開ではあるが破綻する事もなく適度にまとまっている。亡くなった旦那との微妙な関係性や心配する父との衝突、一緒に上る友人ハンターとの不倫トラブルなど様々な感情エッセンスを散りばめつつ、何と言っても極端な「高所」という誰にでも分かりやすい決定的なシチュエーションによって観る側は常に居心地の悪さと強い緊張感を強いられ、安心感を持つ余裕を一切与えてもらえないのだ。だから結果的に我々も塔の上に居る彼女らと同じ気持ちを味わう事になる。まさしくこの臨場感こそがワンシチュエーションものの醍醐味と言えるだろう。そういう意味でもこの作品はシンプルながら実に良く出来ており、評価が高いのも頷ける。だいぶ前に公衆電話を舞台にした「フォーン・ブース」というワンシチュエーションものの映画があったが、それに通ずる面白さだったのではないかと思う。ヒッチコック「裏窓」なども有名だが、ワンシチュエーションものって実は定期的に良作が出るのかも知れない。
またこの作品いかにもB級っぽい雰囲気の中で実は細かい作り込みも上手くて、特に終盤でハンターがすでに死んでいるという事実を受け入れたくなかったベッキーが勝手に妄想していた、というくだりなどは秀逸だったと思う。途中でベッキーが悪夢を見ては我に返るという「伏線」をあえて何度も刷り込んでおいて、そこから終盤にハンターとの何気ない会話の途中という状況からの「実は独りぼっちだった」という衝撃の展開と見せ方。これにはまんまとやられた。やっぱり「見せ方」って本当に大事だよなあ、と改めて感じるのだった。
映画「ジョーカー」でも主人公のアーサーが同じアパートに住むソフィーに恋をして恋愛に発展し恋人になる。そしてそこからの「全てがアーサーの妄想だった」という衝撃。この時はクラッとするほど怖かったが(笑)、それに匹敵する上手さだったのではないか。
あと「人生は短い」など意外にメッセージ性もあったりして、作品のクオリティに合った軽さ具合(?)も丁度良かったのではないだろうか。(一応ほめてます)
しかしそれにしても「高所」って問答無用に怖いよね。
中途半端なホラーよりよっぽどスリリング。それも無条件に。
あの高所の状況が始まってからソファで何度座り直した事か(笑)
コメントありがとうございます。
作品を通して感じたことを言葉にすると、実に様々な意見があるのだと気づかされますね。
それでいいんだと思います。
特にこの作品は、私にとって価値観の違いを感じてしまいました。
彼らの考えの根底にあるものが見えたことで、それを知るだけでも価値はあったと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。