「下手なホラーよりよっぽど怖い!」FALL フォール おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
下手なホラーよりよっぽど怖い!
予告で観た高層鉄塔の上に取り残されるという内容以上のものはないだろう思っていましたが、どうにも結末が気になって鑑賞してきました。確かにストーリーにそれほどの深みはないですが、予想以上におもしろい作品でした。
ストーリーは、夫・ダンをフリークライミング中の事故で亡くして以来ふさぎ込んでいたベッキーを励まそうと、親友のハンターが超高層鉄塔に登る計画を持ちかけ、二人でなんとか頂上にたどり着いたものの、その後すぐに老朽化した梯子が崩れ落ち、二人は地上600mの鉄塔の先端に取り残されてしまうというもの。
予告で観たとおり、本当にただそれだけの物語なのに、二人の動向からまったく目が離せませんでした。というのも、二人が味わう緊張、不安、焦り、恐怖、絶望といったさまざまな負の感情が、スクリーン越しにひしひしと伝わってきて、観客も同じ感情を半ば強制的に共有させられるからです。
冒頭の断崖フリークライミングですでに恐怖を感じていたのですが、その後の地上シーンもそこそこに、テンポよく超高層鉄塔へと場面を進めます。そこで、今にも抜けそうなアンカー、激しく軋む鉄塔、腐食の進んだ鉄骨、緩みきったボルトなど、ホラー映画さながらに恐怖を煽ります。さらに頂上場面に進んでからは、二人の視界に入るものと吹き荒ぶ風以外はほとんど描かれず、それが劇場の大スクリーンと音響のおかげで絶望感マシマシです。これは、家庭のテレビ鑑賞では伝わらないと思います。
この絶望的状況の中で、助かるために知恵を絞り、ありとあらゆる方法を試し、ことごとく失敗し、それでも決して諦めない二人の姿が熱いです。そんな中で明らかになるハンターの秘密、父への思いを改めるベッキー、適者生存という言葉に集約されるソケット充電やハゲワシにまつわる伏線回収など、ただの脱出劇で終わらせない脚本も鮮やかです。終わってからも、「どちらかが落ちる時はスマホを持って連絡しよう」と言ったハンターの言葉を思い出してゾクッとしました。2時間近く緊張と恐怖にさらされて、鑑賞後は疲れてぐったりしてしまいました。
キャストは、ベッキー役にグレイス・キャロライン・カリー、ハンター役にバージニア・ガードナーで、極限の状況下で支え合う二人の姿は、本当の親友のようで素敵でした。