「副題を深読みする PSYCHO-PASSの衝撃」劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE ムラサキ・サキさんの映画レビュー(感想・評価)
副題を深読みする PSYCHO-PASSの衝撃
副題の「最後に、罪を裁くものは、誰かーー」は思索を深める一文である。
現実世界では、日本国内で連続的にテロ事件が発生している。2022年7月8日に前首相が、そして2023年4月15日に現職の首相がテロに見舞われている。
そういった状況の中、映画の終盤での驚きは、式典のシーンで常守朱が禾生局長を公開銃撃するテロシーンだった。
劇場版 PSYCHO-PASS PROVIDENCEでは、冒頭で完全なAI(シビュラシステム)による絶対的な統治の下、不完全な人間が介在する法律は不要とされ、その廃止の動きが見られた。
プロビデンスとは、神または高次の存在が世界の出来事を監視し、指導し、時に介入するという概念を指す。色相の濁らないシビュラの申し子である常守だが、法律の廃止には反対の立場を取っていた。
そんな彼女が終盤で、色相がクリアなまま、公衆の面前でテロを遂げたことは衝撃的だった。
ここで注目したいのは、全知全能のシビュラシステムがテローーそれによって達成される政治目標(法の廃止の阻止)ーーを認めたという事実だ。
一般的には、テロリストの政治的目的は達成させてはならないという考え方が主流だ。なぜなら、テロリストの要求を飲むと、模倣犯が生まれ、社会が混乱するからだ。
それにもかかわらず、シビュラシステムは法の廃止の阻止を認めてしまった。その理由は何だろうか。
犯行後、常守はシビュラシステムに向かって「いずれ法律はあなたを守る唯一の盾となる」と言った。
シビュラシステムはおそらく、全知全能のAIであっても、あらゆる問題や脅威を解決することはできないと認識したのかもしれない。ハッキングの脅威、免罪体質者の存在、その他の予測不能な事態に対応するためには、法律という別の枠組みが必要だと。そして、テロによる政治目標を達成させることで生じる被害や長期的な悪影響を差し引いても、総合的に見てプラスだと判断したのかもしれない。
法律が存在することで、シビュラシステムが対処できない問題への解決策が可能となり、その結果、より安定した社会を維持することが可能となる。
つまり、常守の発言は、「法律こそがシビュラシステムを補完し、様々な問題や脅威に対抗するための盾となる」と解釈できる。これは、シビュラシステムの絶対的な支配に対する警告(不完全な人間無しには完全な統治は達成し得ない)とも解釈でき、法律の存続の重要性を示している。
ここで副題に戻りたい。
「最後に、罪を裁くものは、誰かーー」
これはトリプルミーニングになっていると思われる。
表面的には、罪を裁くのは、シビュラシステムである。
しかし、裏の意味は、シビュラシステムが対応不能になったとき、罪を裁く者はやはり人間であるという、常守からシビュラシステムへの警告だろう。
そして常守のテロ行為は、結果的に法の廃止を防いだが、テロは許されるのかという命題を観客に突きつけている。
シビュラシステムはテロを許した。
罪を裁くものは、誰か。
あなたならどう裁く?