「そしてあなたを愛し続ける」ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
そしてあなたを愛し続ける
『ボヘミアン・ラプソディ』以降頻繁に製作されるレジェンド・ミュージシャンの伝記映画。
新たに“開催”したのは、ホイットニー・ヒューストン。
音楽に疎い私でも知っている。
映画『ボディガード』への出演。その主題歌であるあの名曲。
数々の記録を樹立。史上最も成功した歌手の一人。圧倒的な声域から“ザ・ヴォイス”の呼び名。
栄光の一方、波乱に満ちた生涯…。
…あれ? 何かでこういうの見た事あるぞ。って言うか、近年製作されたレジェンド・ミュージシャンの伝記映画ほとんどだ。
それぞれのミュージシャンにはそれぞれ語るべき物語や魅力がある。多少似たり寄ったりの生涯であっても。
ところが、それが映画になると…。
『ボヘミアン・ラプソディ』や『エルヴィス』のように話はステレオタイプでもキャストの熱演パフォーマンスで秀でた魅力の作品もあるが、ほとんどの作品がステレオタイプの域から抜け出せない。
本作も残念ながら然りであった。
幼少時よりゴスペル聖歌隊で歌の才能を発揮。
厳格な母と仕事面に介入してくる父。両親の仲や家族関係は複雑。
敏腕音楽マネージャー(スタンリー・トゥッチ好助演!)に見出だされ、レコード契約。瞬く間に人気歌手へ。
歌手だけじゃなく、モデルや女優としても活躍。
人種を超えて愛される存在に。
が、人気があるという事はアンチも。
白人に魂を売ったと同じ黒人から非難。
それでもホイットニーは強い姿勢。黒人の歌い方って? 白人の歌い方って? 私は歌手として私の歌を歌う。
歌手ボビー・ブラウンと結婚。娘が生まれ、幸せな家庭を夢見るが、夫との関係に不和。(DVもあったらしいが、直接的な描写はナシ。ブラウン側から圧力でもあったか…?)
ホイットニーにはもう一人、大切な存在が。昔からの親友で恋人との同性愛。
複雑なプライベート。黒人としての立場。人気者のプレッシャー…。
やがて彼女が手を出したのは…。この薬物入手の経緯、一回目は気付かず、二回目でやっと気付いた。何という巧みな欺き方! 日本の芸能界の皆さん、真似しちゃダメですよ。
離婚。逮捕。リハビリ。
しかし娘や母親や友人やファンの愛に支えられ、その愛に応え、再びステージに立つ…。
確かにドラマチックな生涯。
でも何て言うか…、Wikipediaで紹介されている来歴の中からトピック的なものをチョイスして、ダイジェスト的になぞった感しかしない。
物語や展開的にもメリハリに欠け、深みや人物像の掘り下げも浅い。ただ“ホイットニー・ヒューストン”を紹介しているだけ。
140分強がやたら長く感じた。これならドキュメンタリーやワイドショーで紹介した方が見易かったかも…。
にしても、栄光~挫折~復帰、訳ありの生い立ちやプライベート、薬物に溺れ…。レジェンド・ミュージシャンの生涯って、本当に誰も彼も似たような道を歩むのかね…?
映画の作りとしてもアレサ・フランクリンの『リスペクト』と対象人物を変えただけで何が違う…?
ナオミ・アッキーは熱演を披露。
ヘアメイクなどで似ているっちゃあ似ている。でも、ラミ・マレックやオースティン・バトラーと比べると…。
残念なのは歌が吹替だという事。まあ、ホイットニーの歌を完コピして歌えという方が無理な話。(自身で歌も披露したジェニファー・ハドソンやタロン・エガートンやオースティン・バトラーはスゲェ…)
でもその分、ホイットニー自身の歌声はたっぷり聞ける。
何だかんだ歌声やそれを用いたステージは高揚感あり。『ボディガード』出演の経緯エピソード(ベタなラブストーリーに最初脚本を放るも、相手役がケヴィン・コスナーと知るや即決か~い!)なども興味引く。
だけど、それ以外は…。
作品自体は型通りで突出するものではなかった。
これでホイットニー・ヒューストンの何を得たかと言われても…。ただ漠然とその生涯を見知ったぐらい。
作品自体はすぐに記憶から薄れそうだが、ホイットニー自身やその歌声は永遠に忘れはしない。
ホイットニーが歌や私たちを愛したように、そして私たちもあなたを愛し続ける。