ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック! : 特集
【なぜ超高評価?】異次元の絶賛の理由を解明してみた
観て納得…これは、クソみたいな世界がちょっと好きに
なる青春映画であり、あらゆる場面が心に刺さる“自分
のための映画”だった――必見中の必見、新時代の1本!
やめてくれ、その映画は俺に効く……。と、虫の息でこの原稿を書いている。
何があったのかと言うと、9月22日公開の「ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!」を鑑賞したことだ。いやあ、これが深く刺さったのなんの……。
本作、世界的に異次元とも言える絶賛を受けていることをご存知だろうか? この記事では、「なぜそこまで高評価なのか」を探るべく実際に鑑賞した、映画.com編集部のレビューを掲載。愛せるし推せる、エモとかっこよさと優しさに満ちた青春映画であり、新時代の斬新&渾身作の誕生を、ぜひあなたにも目撃してもらいたいと思う。
作品概要やあらすじは予告編でチェック!
【絶賛が異次元】辛口批評家&観客が90%超支持!
今、高評価に次ぐ高評価で世界が揺れている――!
まずは、世界的にアツく愛される「ミュータント・タートルズ」を新たに映画化した本作が、いかに絶賛されているかをご紹介しよう。この映画、控えめに言って“ただならぬ作品”である。
[この評価、歴史的]あのロッテン・トマトで“批評家&観客ともに90%以上”は激レア! 最優秀撮影賞も射程圏?
映画ファンが作品選びの参考にする辛口批評サイト「ロッテン・トマト」での、本作の評価は? 批評家スコア97%、観客スコア90%と、圧倒的な絶賛を浴びている。
あえて強調するならば、批評家・観客ともに90%以上の支持は非常に稀だ。同等の評価を受けた主な作品としては、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズや「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「アベンジャーズ エンドゲーム」などがある。
さらには、一部の海外メディアは光と影の描写に着目し「最優秀撮影賞の候補となるべき」などと激賞している。つまり「ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!」は、“歴史的な傑作”級の評価を受けている、というわけだ。
[次に観るリスト入り不可避]「心奪われる罪なほどの1本」 感想にそそられる
もう少し具体的に、批評家や観客からはどんな感想が出ているかを見ていこう。ロッテン・トマトでのコメントを以下に引用する。
「現代的な物語と革新的なビジュアル、そして子ども時代から触れてきたノスタルジーとのバランスが最高!」
「スクリーンで最高級の盛り上がりを見せて、子どもも大人もタートルズに心を奪われる罪なほどの1本」
どれもこれも鑑賞意欲を刺激する瑞々しいコメントばかり。俄然、興味がわいてくるだろう。
[そこには愛しかない]タートルズに“育てられた”スタッフ・キャストが、最高の映画を目指している
では、そんな作品をつくったのはどこの誰なのか? スタッフは、日本でも大きな話題を呼んだNetflix映画「ミッチェル家とマシンの反乱」(第94回アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネート、アニー賞8冠)のジェフ・ロウが監督。
プロデューサーは、ハリウッドの人気コメディ俳優でもあり、「フェイブルマンズ」「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の好演も記憶に新しいセス・ローゲンが務め、共同プロデューサーには「ソーセージ・パーティー」のエバン・ゴールドバーグが名を連ねている。
スタッフ陣は皆、「タートルズを観て育った」という人ばかり。特にセス・ローゲンは「子どものころから生粋のタートルズファン」と度々公言しており、ハリウッドの超一流の面々が「最高のタートルズ映画」を創出しようと心血注いだことがうかがい知れる。
製作陣のアツい思いも伝わったのか、アメリカでは公開5日間でのオープニング興行収入4310万ドル(約61億円)を記録する大ヒットスタートを切るなど、絶賛を受け続けているわけだが……。
ここで2つの疑問がわいてくる。1つは、そこまで評価されている本当の理由とは何なのか? もう1つは、果たして日本の観客が鑑賞して楽しめるのか――?
【観てわかった、絶賛の理由】はじける楽しさとズシン
とくるエモさ これは“自分のための映画”だった――
ここからは上述の疑問を解消するべく、映画.com編集部によるレビューを記していこう。
・筆者紹介
30代前半・男性編集者。「タートルズ」といえば、小学生のころにスーパーファミリーコンピューターのゲーム(横スクロールアクションのやつ)を親友とプレイしまくっていた思い出。だからタートルズを観ると懐かしく、たまらない気分になる。
●絶賛の理由①:映像と音楽がはじける楽しさ
ポップなビートがおしゃれでクール! 脳内物質がドバドバ出る感じ!
真っ先に語りたいのは、映像についてだ。手描き風アニメーションは「スパイダーマン スパイダーバース」などで見られたように、近年人気の手法であり、本作でもフレッシュな感覚を筆者に与えてくれた。
とはいえアニメーションのテイストは言ってみれば“異質”であり、ニューヨークの風景や人間やミュータントやタクシーから吹き出る排気ガスなど、目に映るものすべてが非常に独特のセンスで切り取られている。
しかしながら、である。観ているとだんだんクセになる。中毒性がハンパじゃあない。次第に、このアニメーションでこそ、ティーンエイジャーのカメたちが大都会ニューヨークで大暴れする物語を最も魅力的に描けるのだと、心の底から思うようになる。
そこにストリートカルチャー、ポップなビートを刻む音楽など、ノりにノれるクールな要素がプラスオンされていく。ネタバレになるため詳述はできないが、物語後半の展開はカタルシスに満ちていて、セロトニンやらドーパミンやらアドレナリンやらの脳内物質がドバドバ出る感じがしたし、正直、ここまで面白くなるとは思わなかったくらい面白くなっていくから、まさにマジックだ。
●絶賛の理由②:物語のエモさがズシンとくる
心が震えて仕方ない…“僕の青春の傷み”に寄り添う優しさがしみる
筆者に最も刺さったポイントは「嫌われ者の崇高な精神」を描いた青春映画であることだった。それはキャラの境遇に如実に現れている。
人間たちから隠れて暮らすタートルズたちは、同世代の高校生がきらびやかな青春を送るのを尻目に、マンホールの下にとぼとぼと帰宅する。エイプリルは校内放送カメラの前で嘔吐したことから、彼女のロッカーには“リバースガール”と落書きされている。彼・彼女らはいわば嫌われ者なのだ。
筆者の青春時代に彼らほどの痛みはなかったが、嫌われることが怖くて好かれたくてしょうがなかったり、似たようなことは経験してきた。こうした感覚は多かれ少なかれ誰にだってあるはずだ。だから物語や登場人物に、僕は親近感を覚えたのだと思う。
ただ普通に青春を送りたい。こんな願いは贅沢なのだろうか? いいやそんなことない。だからタートルズやエイプリルは、勇敢にも“今を変えよう”と行動を起こし、ニューヨークで暗躍する悪党、スーパーフライを捕まえようと奔走する。
彼らが頑張る姿を観て、心が震えて仕方なかった。なぜなら彼らは青春時代の僕だからだ。あのときの僕に「心配すんな、大丈夫だ」と寄り添ってくれるような、応援してくれるような、優しい膜みたいなもので包み込んでくれるような感覚があった。本作の本質は、きっとこのエモさにあるんだと強烈に思いながら、僕はにじむ視界でラストシーンを眺めていた。
●絶賛の理由③:予想の倍、笑える
頭のネジが最初からない連中が織りなすハイテンションコメディが良い
コメディの強度と面白さは「さすが」の一言で、頭のネジがゆるいどころか「最初からネジが入ってない」くらいのギャグが事あるごとに連発されるため、笑いという感情でも脳内物質のツボが突きに突かれる。
特にティーンのハイテンションなエナジーがすさまじく、タートルズの4人が一斉にしゃべりだすとま~~~うるせえ。普通は不快になるようなうるささが、本作はあまりにもやかましすぎることで逆に笑えてくるからすごい。プロが計算し尽くした芸術的うるささなのである。
で、キャラクターもみんな良いので観ていて飽きが来ないわけで、あえて注目してほしいのは意外な脇役、モンド・ゲッコー(声優:ポール・ラッド/木内秀信)。ヤモリの敵ミュータントだが“バイブス”を大事にするキャラで、爽快感あるぶっ飛び方をしていて良すぎる。大好きだ。
あともう1つ、笑えるギャグとグッとくるエモのコンビネーションは「映画クレヨンしんちゃん」に近いものがあると感じた。ジェフ・ロウ監督の前作「ミッチェル家とマシンの反乱」でも同様の指摘が多くされていたので、この点からも、日本人好みの作品だと言えるかもしれない。
●絶賛の理由④:タイムリーなテーマが効果的に詰まってる
道行く人も、ミュータントも、みんな“怪物”に見えるのはなぜなのか?
最後に真面目なことを話しておこう。本作のテーマは他者理解であり、他人の内面を知れば恐怖は減る、ということが描かれている。
本編では人間たちの顔が必要以上に醜く描かれている(ように感じる)。人間たちに虐げられたスプリンター(ネズミのミュータントでタートルズたちの父親的存在/声優はジャッキー・チェン&堀内賢雄!)やタートルズらの視点を通じて世界が語られるため、彼らにとって人間たちは怪物だと暗に示されているのだ。
一方で、ニューヨークの人々はタートルズたちに「化け物」と石を投げたが、エイプリルはタートルズを初めて目撃したとき(驚きはしたものの)危害は加えなかった。それはなぜかと言うと……具体的な理由はぜひ本編で確かめてもらいたい。本作の本質的な他者理解というテーマは彼女が体現している。
目ではなく、心で。物語のメッセージを受け取れば、この“現実”というクソみたいな世界がちょっとだけ好きになってくる。まさに今の世界に必要なテーマやメッセージが込められており、ただ楽しいだけじゃあない、今観るべき大事な作品でもあるのだ。
[結論]刺さりまくる“自分のための映画”だった
アニメ豊作の年のトドメに、見逃してはならない“あなたに捧げる渾身作”!
まだまだ語りたい要素がもりだくさん(日本語吹き替え版声優の良さや、「進撃の巨人」「アベンジャーズ」などのポップカルチャーを引用したギャグの切れ味など)で、あれもこれも語りたいが、そろそろ特集記事をおしまいにしよう。
ざっくり結論としては、本作はあらゆる場面が刺さりまくる“自分のための映画”だった。これは、この記事を読む“あなた”に捧げる大切な作品なのだ――。
また、2023年は「BLUE GIANT」「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」「スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース」「君たちはどう生きるか」「マイ・エレメント」など“アニメ豊作の年”と言えるが、「ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!」はそれらの作品の死角からトドメとばかりにやってきた渾身作でもあった。
映画館で観てほしいと、僕たち映画.comは切に願っている。