劇場公開日 2023年2月23日

「【2/26追記】扱う内容が実は法律的に特殊なので、一定の配慮は欲しかった…。」湯道 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【2/26追記】扱う内容が実は法律的に特殊なので、一定の配慮は欲しかった…。

2023年2月25日
PCから投稿

今年62本目(合計714本目/今月(2023年2月度)28本目)。

温泉(公衆浴場)をテーマにした映画というのはおそらくこれが初めてか、あっても数本くらいではないかと思います。公衆浴場をテーマにしつつ、その経営等が論点になりつつも、一部をギャグよりに寄せたり人情に訴えかけたり、といった趣旨です。

いくつかの方で橋本環奈さんを応援しようという動きもあるようでしたが、私はそこまでは…というくらいです(別にアンチ、というわけではない)。

日本の伝統的な文化でもあるし、(日本語がある程度わかる)外国人の方でも理解しやすいように展開を優先させているので、理解に困る、というところはないです。

とはいえ、この映画、きわめて気が付きにくいのですが、「憲法上の論点」がこっそり隠されていて、それが「茶化されている」というか、「軽んじられている」という点については残念に思いました。ただ、この話は究極憲法論の話であり、映画の作者やスタッフ、作成員会等が想定していた範疇を超えるのだろうとは思いますので、減点幅は限定的です。

 評価は4.7を4.5まで切り下げています。

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 (減点0.3/公衆浴場の果たす「役割」に関しての扱いが雑)

 ・ 日本では職業選択の自由(憲法22)があります。もちろんこれも絶対無制限ではなく、たとえば「医師免許をもっていないと医師になれません」といった公益性の高い規制はあります。

 一方で、「公衆浴場」というのは戦後のまもない時期からあったもので、戦後の混乱期においては、そもそも「賃貸マンション・アパートにお風呂がない」という家は多かったので、公衆浴場は一定の存在意義がありました。しかし、どこにでも公衆浴場があると、公衆浴場は「共倒れ」してしまいます。そのため、「公衆浴場法」という法律で、「(都道府県ごとによって基準は異なるが)既存の公衆浴場から何m以内に新築してはいけない」という規定があり、この法律については最高裁まで争われています。

 ・ 昭和30年: 「無用な競争によって生じうる浴場の衛生設備の低下の防止のため」
 ・ 平成元年: 「既存の公衆浴場業者の経営を守るためには必要」

 …ということでどちらも敗訴が確定しています。つまり、現在(令和5年)にいたっても、公衆浴場というのは好き勝手に作れません。

 そのような特殊な性質がある「公衆浴場」であるからこそ「既存の公衆浴場業者の経営の安定化に資するために必要」という判例があるのであり、そうであれば「既存業者には当然一定の経営努力」が求められるものです。しかし映画内では閉めるだの閉めないだのというドタバタ劇だの何だのというコメディ色が強く、「職業選択の自由の特殊な例外」としてあげられる「公衆浴場の配置規制」という今でも有効な最高裁判例について、その判例が述べる「既存の業者の既得権益を守るため、経営を守るため」という部分を「まったく果たそうとしていない」という点は、判例の趣旨を没却するにほかならず、この点は「憲法論との兼ね合いで」やや「扱いが雑」という点はあろうかと思います。
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 (減点なし/参考/公衆浴場などでの貴重品の扱いについて)
 ・ 映画では「貴重品は番台へ」という張り紙がしてあるところがあります。裏を言えば「貴重品は必ず預けてください、そうしないと責任はとれません」ということです。

 しかし世の中そうは甘くありません。

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 (商法596条の1)
 旅館、飲食店、浴場その他の客の来集を目的とする場屋における取引をすることを業とする者(以下この節において「場屋営業者」という。)は、客から寄託を受けた物品の滅失又は損傷については、不可抗力によるものであったことを証明しなければ、損害賠償の責任を免れることができない。

  → 番台(銭湯)やフロント(ホテル)などに預けた場合の滅失は、不可抗力(何とか大地震クラスでの焼失)でなければ、損害賠償の責任を負う、ということです。

 (商法596条の2)
 客が寄託していない物品であっても、場屋の中に携帯した物品が、場屋営業者が注意を怠ったことによって滅失し、又は損傷したときは、場屋営業者は、損害賠償の責任を負う。

 → 例えば銭湯なら、寄託していなくても(例えばコインロッカーに入れていても)入口出口の監視が散漫で泥棒に入られたりした、コインロッカーの暗証番号が全部0000で固定だとかという「あまりに注意散漫がひどい」場合の話です。

 (商法596条の3)

 客が場屋の中に携帯した物品につき責任を負わない旨を表示したときであっても、場屋営業者は、前二項の責任を免れることができない。

 → 上記の2つについて「責任は負いません」というような断り書きは無効だ、ということです。

  ※ ただし強行規定ではないので、「596条の3と関係なく、当店にお入りいただくときには、何があろうが責任はとらないことについては守ってもらいます」という注意書き等はどこかに必要です(何もなければ596条の3が発動されます)。
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  …という怖い論点が実は銭湯(公衆浴場)にはあります(ほか、ホテル・旅館など)。

yukispica