「【”現代版「車輪の下」”愛する父親が家族を捨て別の女性に走った事と、父親の無自覚なる自分への過度な期待に心折れた息子の姿を描いた、沈痛なる作品。家族愛の齟齬が齎した事の代償は限りなく大きい・・。】」The Son 息子 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”現代版「車輪の下」”愛する父親が家族を捨て別の女性に走った事と、父親の無自覚なる自分への過度な期待に心折れた息子の姿を描いた、沈痛なる作品。家族愛の齟齬が齎した事の代償は限りなく大きい・・。】
■ヘルマン・ヘッセの名作「車輪の下」
文学好きの方は、一度は読んだであろう哀しき物語である。
周囲からの期待を一身に背負い、その軋轢の中で疲弊し、心を病んでいく少年の姿を描いた1905年公開作である。
だが、現代の進学に伴う少年少女の問題は一世紀過ぎても、何ら変わっていないのである。
ー 今作では、ヒュージャックマン演じる敏腕弁護士ピーターも、別れた妻ケイト(ローラ・ダーン)も17歳の息子ニコラス(ゼン・マクグラス)を愛している事が良く分かる。
だが、二人の愛はニコラスに上手く伝わらず、ニコラスは不安と、焦燥感の中、精神的に追いつめられていくのである。ー
◆感想
■息子を持つ者にとっては、キツイ内容の映画である。そして、私は息子に対し、”私も、ピーターのような過ちを犯す可能性があったな・・。”と思った映画でもある。
・ピーターは、ケイトとニコラスを残してベス(バネッサ・カービー)と再婚し、一児を授かる。
ー この辺りのピーターの行動論理が描かれないので、推測を余儀なくされる。だが、ニコラスは父の行動に深く傷つき”父さんは、母さんと僕を捨てた!”とピーターに言い放つ。-
・ニコラスは不登校になり、ケイトを憎しみに満ちた目で見てピーターの元に来る。
ー この幾つかのシーンで、ピーターが家を出た理由が推測出来るのである。-
・ベスは気味悪いというが、ニコラスをピーターが受け入れ順調な生活が始まったかと思いきや、ニコラスが新しい学校に初日にしか行っていない事が発覚し、ピーターはニコラスを激しく詰るのである。
だが、それに対し、ニコラスも”父さんは正論しか言わない!”と言い返し、険悪な雰囲気になる。
■このシーンを見ると、ピーターは、仕事一筋の野心家の父(アンソニー・ホプキンス)を少年時代から快く思っていなかったが、実は彼も又、父の資質を継いでいる事が良く分かるのである。”ピーターの父の言葉:サッサと乗り越えろ!”
ピーターは父親でもあるが、息子でもあるのである。
今作は父親は息子に多大なる期待を求める、負の連鎖も描いているように感じたシーンである。
・そして、精神病院に入れられたニコラスはピーターとケイトに懇願して、一時的にピーターの家に戻るが、(シーンは映されないが)ピーターが父から譲り受けた銃で自殺する。
ー 何とも、皮肉な設定である。-
■哀しき白眉のシーン
・数年後、ピーターの元にニコラスがやって来て、嬉しそうに作家志望だったニコラスがピーターに自分が執筆した本を渡すシーンである。本のタイトルは”死は待てる”である。
嬉しそうに談笑する二人。
だが、それは全てはピーターの幻であり、現実にはニコラスはおらず、ピーターは泣き崩れるのである。
<今作のストーリー展開は、観る側に解釈を委ねるシーンもあるが、家族間の愛の齟齬と、父親の息子への過度な期待が齎してしまった悲劇を描いている。
今作は不倫、離婚、両親と息子との確執が根底にあり、常に不穏な雰囲気が漂う作品である。
そして、衝撃的なラストを含めて、強いインパクトを受けた作品でもある。
フロリアン・ゼール監督は自身が家族をテーマに書いた戯曲三部作を「ファーザー」そして今作「The Son」を製作した。
戯曲の第三部は「マザー」である。どのような作品に仕上げ、届けてくれるのかを期待して待ちたい。>
こんばんは。「車輪の下」読んでみたいです。先日は本作と「いつかの君にもわかること」を鑑賞しましたが、両方父と息子の物語です。
「いつかの...」はお薦めです。もしお時間あればどうぞ。