「荒涼とした架空の島を舞台に内省的で陰鬱な物語が進んでいく」イニシェリン島の精霊 ゆみありさんの映画レビュー(感想・評価)
荒涼とした架空の島を舞台に内省的で陰鬱な物語が進んでいく
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親友と思っていた男からある日突然「もう友達ではないから誘わないでくれ」と宣言される。理由を尋ねれば「残り少ない人生を無駄にしたくないから」という絶望的な返事(悲しいかな、理不尽だけどその理由は筋が通っている。悪いけど下らん世間話に毎日付き合わされるなんてごめんだ)。さらに「おまえがこれ以上俺に関わってきたら、俺は自分の指を一本一本切り落としていく」
海の向こうではアイルランドの内戦。二人の男のやりとり、関係はこの内戦の比喩なのだとか。
愚かなまでに優しい主人公は、何とか元の友達に戻ろうと俺(友)に必死に働きかける。止めとけよと僕は心のなかで叫ぶ。もう関わるな。そして宣言どおりに切り落とされた「俺(友)の指」が主人公のもとに届けられる。俺(友)の絶縁宣言は狂信的なまでに本気なのだ。
自分の身に置き換える。友人関係、恋人関係、何やら心当たりがなくもない。仲が良いと思っていた友が恋人がある日突然冷たくなる。心が苦しくなる。気がつけば、この暗い陰鬱な映像に引き込まれている。
荒涼とした風景。島から見える、聞こえるアイルランドの内戦。主人公とその妹の優しさと対比するかのように嫌な人物が次々と現れ(雑貨屋のおばさん、警官)、そして死神と噂される老婆が二人(誰とは言わないが)の死を予告をする。死の影がちらつく中、果して二人はどうなっていくのか。
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