「サビで始まってAメロで終わる、テクニカルな長回しの数珠繋ぎが心臓を鷲掴みにする壮絶なドラマ」アテナ よねさんの映画レビュー(感想・評価)
サビで始まってAメロで終わる、テクニカルな長回しの数珠繋ぎが心臓を鷲掴みにする壮絶なドラマ
舞台はフランスの郊外にある貧困層の移民が多く暮らす公営住宅のアテナ団地。アルジェリア系フランス人の13歳の少年イディールが警官に暴行されて死亡した現場の動画がSNSで拡散されたことで激しい暴動が勃発する。
まずとにかく凄いのが暴動が激化するまでの11分間をワンカットで捉えた冒頭シーン。どうやって撮影しているのか見当もつかない超絶テクニカルな映像で観客を一気に物語に引き込んだ後にドカンと投げつけられるタイトル。正直ここでブチっと切ったとしても短編映画として成立してしまうくらいに濃厚なドラマが凝縮しています。こんな壮絶なツカミは韓流アクションの金字塔『悪女 AKUJO』以来、いや全然ジャンルは異なるものの、『悪女〜』の影響下にあるのは確実です。
イディールの3人の兄、警察への怒りを滾らせて暴動を煽動する三男カリーム、なんとかカリームを説得して事態を収拾しようとする次男アブデル、暴動を傍目に手持ちの在庫を捌こうとする麻薬ディーラーのモクタルがドラマを転がしていくわけですがここにもう一人、彼らとは全然縁もゆかりもない国家警察機動隊のジェロームが放り込まれて物凄い展開になっていきます。
冒頭で繰り広げられたのと同様のテクニカルな撮影で切り取られた長回しの数珠繋ぎはとにかく壮絶で息をする暇もないほどのテンションで一気に駆け抜ける99分。タイトルのアテナは暴動の中心となる団地の名前ですが、戦略を司どるギリシア神話の女神の名前。恐らく暴動のリーダーとなるカリームはトロイア戦争におけるパリスを重ねているのではないかと。主要人物の4人に投影されているのは現代社会そのもので、猛烈な摩擦で引き起こされてあっという間に燃え広がった炎を鎮火することは出来ないことを鮮烈に見せつけます。
終幕で描かれるのは暴動の発端であり、本来であれば冒頭に描かれるべきカット。それが無言で示す無慈悲に激しく打ちのめされます。とにかく壮絶なドラマですが映像が気が遠くなるくらいに美しいのが印象的。これをスクリーン上映しないというのは本当にもったいないです。