劇場公開日 2023年5月12日

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TAR ターのレビュー・感想・評価

全256件中、21~40件目を表示

4.0指揮者の苦悩

2024年2月5日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

 まずは、マーラーの交響曲第5番の演奏風景が扱われているので、ビスコンティの「ベニスに死す」を嫌でも思い浮かばされた。あちらは、美に魅入られた男性作曲家の苦悩だったけれど、こちらも美に魅入られた女性指揮者の苦悩という対比が面白い。「ベニスに死す」では、旅先で偶然知りえた、美しい少年を追いかける物語だったが、こちらは、Tarが男性社会に負けないように、日々、緊張と集中を強いられる中、安らぎを女性性に求めているようにも見えた。ケイト・ブランシェントの指揮を含めた演技も鬼気迫るものがあり、公私で次第に不協和音が重なって追い詰められて、転落してしまうのは、現代ならではか。
 劇中、作曲家マーラーが交響曲第5番がきっかけに、人生が大きく変わってしまったのが暗喩に使われているかのよう。とかく、女性同士世界の方が、男性同士よりもやっかみ、嫉妬が多く、感情的な反応が強いだけに、男性優位の指揮者という職業でのむずかしさを描いているようにも見えた。
 Tarの転落劇にしても、クリスタという生徒が自殺したこと、授業でバッハを拒否する男子学生への指導、副指揮者の後釜で身びいきの女性を指名しなかったこと、チェリストを団員以外の女性を抜擢したこと、子どものいじめ、仕事部屋から転居を迫られたことなどで、映画で見た感じでは、グレーであり、本人の責任だけではないような違和感が残った。女性が上り詰めることは難しいってことなのか。
 欲を言えば、クラッシック音楽が好きで、音響が素晴らしかったので、もっと音楽シーンが聞きたかった。

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parsifal3745

3.5ノリがよくわからない

2024年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

伸るか反るかの映画だと思った。
ところどころ生々しい表現は面白かった。文脈を所々、外しているのは狙いだろうけど、ハマるかどうかは微妙なところ。
ラストも解釈は判然としないが、それも狙いなんだろうな。
生きるとは現実と反面してどこか擬態めいた世界にあるということだろうな。

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ドラゴンミズホ

3.0ケイト・ブランシェットの熱演が最大のみどころ だが…

2024年1月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

本作はケイト・ブランシェットの独壇場だ。主演女優としての鬼気迫る演技はとにかく大迫力で圧倒された。そして紆余曲折を経て、余韻を残すラストシーンへ。上映時間158分も、さほど長くは感じないほど引き込まれる。
ただし、実話だと思い込んで観ていたので、観終えた後にフィクションだと知り、ちょっと微妙な気分に。全体を通してとても良い作品だとは思うのだが、うーん…そうなると本作の趣旨がよくわからんなぁ的なわだかまりが残ってしまった。
また、ストーリー中に多くの伏線が張られていたと思うが、結構ディテールへのこだわりが強く、正直なところついていけなかった(汗)1度の鑑賞では本作の真髄は見えないのかも知れない。
評価されている作品だが、好みは分かれるだろう。個人的にはやはり星3つが上限かな。

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いけい

4.0ケイト・ブランシェットは性別を超えた特別な魅力がある。

2024年1月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

怖い

興奮

知的

最初は筋が見えなくてどういう展開になっていくのか予想がつかずに見ていた。
だんだんそういうことか、となり、
冒頭のシーンの意味が結びついていくのが楽しい。
重苦しい展開かと思いきや最後はなかなかユーモラスな着地。
物語みたいに権威を盾に傍若無人に振る舞う人が、
現実でもちゃんと堕ちてくれる世の中ならまだ救いがあるだけど。

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かやは

1.5話の軸がよく分からない ダラダラと続くだけで、飽きる 最後まで観れ...

2024年1月19日
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話の軸がよく分からない
ダラダラと続くだけで、飽きる
最後まで観れなかった
主役のセリフ、長ーい

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あきら

4.0ハンサムウーマン

2024年1月18日
iPhoneアプリから投稿

 指揮者としての絶頂期から、セクハラパワハラでの転落。どん底から異国での再起。たくましい。
 絶頂期のリディアにしたら、考えられないジャンルであろうラストの場面。それでも指揮者としての自分の居場所を見つけたリディア。たくましい。
 ケイト・ブランシェットがとにかく素敵。ハンサムウーマンって言葉がピッタリ!

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アンディぴっと

3.0こんなに人の気持ちがわからない人、自分の事もわかってない人が人の心...

2024年1月16日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

こんなに人の気持ちがわからない人、自分の事もわかってない人が人の心を打つ音楽が作れる気がしない。この分野で頂点に上り詰める?人としては情け無い。

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hoo

3.0彼女の生き方

2024年1月15日
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鑑賞方法:VOD

知的

難しい

冒頭から対談~大学の講義頃まで
話して三十分近く時間を要して
見るのをやめるか考えていた
こういうの苦手だな~と思いながら。
やっと動きだしてからも
彼女の話はとまらない

マエストロの映画なので
♪オーケストラの演奏が聞けると
思っていたら練習風景だけ
初めから主役のターの人生
生き方を描いていることがわかった
吹替えで見ているのに
なかなかわかりずらかった
音楽界の頂点を極めた
ターの生き方
ベルリンフィルのマエストロ
昇り調子の時は何をしても
上手く進むけど
いつまでも……続かない
誰かを蹴落とせば
やがては自分に返ってくる
絵に描いたような人生
彼女の人生は輝かし時があったが
充実した時間もあって
何も怖いことはなかった
常に…闘って生きていた
喜びも味わったが
それ以上に苦しみも味わう

主役のケイトブランシェットの
台詞の量は分厚い台本だったと想像します
演技は素晴らしかった。
ラストは
音楽を知らない人たちを
相手に指揮してるってことですか?
わからないところが沢山ある映画でした

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しろくろぱんだ

4.0繁栄、陥落、再生

2024年1月14日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

頂点を極め、
頂からの陥落。
落ちてもなお再生し、這い上がろうともがく。
その物語の中には、年齢による衰退、若さゆえのエネルギッシュさ、人生そのものの繁栄と衰退まで絵ががれているように思った。

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上みちる

5.0私的鑑賞映画史上No.1:トッド・フィールド監督×ケイト・ブランシェットに脱帽!!

2024年1月9日
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鑑賞方法:映画館

知的

『TAR/ター』は劇場で3回、Blu-rayで1回観ている。
本作は2回以上観る価値がある。

本作はトッド・フィールド監督16年ぶりの新作であり、
アカデミー賞主要6部門にノミネートされながらも無冠に終わっているが、
主人公TARを演じるケイト・ブランシェットの演技はただならぬ迫力があり
彼女自身引退をにおわせたくらい心身を削って演じているのがわかる。

初見ではセリフやストーリーを追うので精一杯で、
正直、映像や音に集中できていなかったと思う。
であるがゆえに、あのシーンはどういう意味だったのか、あの音は?と
疑問が尽きなかった。自分の仮説をもって終わった。
その仮説が正しかったのか、ストーリーを知り、
セリフもだいたいわかった上での2回目の視聴は、
本作を理解する解像度が格段に上がったと思う(回を重ねるごとに気づきが増える)。

本作は主人公TARがかつて指導した若手指揮者が自殺をしたことに端を発し
自殺した両親から告発されてしまうのだが、
どうもTARに対する悪意を持った人物や、TARを利用してのし上がろうと
する人物など、複雑に色んな人の思惑が絡み合っていて、
それがTARを陥れていく物語だ。

TARも権力があるがゆえに、傍若無人な側面もあるが、
ある意味、自分の思いに率直なのだろうと思う。
キャンセル・カルチャーに巻き込まれていくが、
そこで終わらないところがTARの真の強さだとラストでわかる。

ただ、後半のTARの狂いっぷりには圧倒される。
オーケストラでのライブ音源録音シーンはそれが顕著なのだが、
もはや笑えるくらいに気持ちいい狂いっぷり。
そこが魅力でもある。

ラスト近くで、TARの実家で彼女がバーンスタインのビデオテープを観て
涙を流すシーンがあるが、ここで原点回帰したTARの表情が変わるのが
とても印象的だ。険しい表情から悟りの表情に変わるのだ。
そして兄トニーとの会話も心があったかくなった。
(TARはリディア・ターという名前だが、本名はリンダだということもわかる)

ラストは唐突とも思える終わり方だが、
きっとTARの再生の物語であろうと思う。
これは1回目と同じ所見だ。その確認ができた2回目だった。
3回目も4回目も所見は変わらなかった。

本作は説明的なセリフ・字幕は一切ない。
したがい、物語をどう解釈するかは視聴者に委ねられている。
おそらく観終わった人同士が話すと、違う見解や所見が行き交うはずだ。
そこがこの映画の面白さであり、私が沼にハマった所以だと思う。

ちなみにTARのドイツ語でのセリフの字幕もない。英語のみ。
本作を面白いと思うかどうかはその人次第だが、
絶対観て損はないと思う。必ず語れるのは間違いない。
2時間45分なんてあっという間だ。

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ひでちゃぴん

4.0全てはケイトの圧巻な演技力!

2024年1月6日
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鑑賞方法:VOD

知らないマエストロの世界に引き込むケイトの演技に脱帽です。 嫉妬、忖度、贔屓、エゴ、ドキュメンタリーを見ているような錯覚に陥る作品でした。

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KEICCHI

3.0最後はまさかの〇〇〇〇オチw

2024年1月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

序盤の長い会話劇に睡魔に襲われたが、ケイト様の圧倒的なオーラで覚醒。
トップに登り詰めた女性指揮者がプレッシャーとスキャンダルで徐々に歯車が狂い始め、自爆のような形で転落。
最後はまさかの〇〇〇〇オチで困惑。
なかなか貴重な映画体験だった。

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イサヤ

5.0振れ幅

2024年1月1日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

才能があったらああなるかも知れん。
と思って観てた。
というかとにかく画が美しくて。ケイト・ブランシェットはすごいけど、あの画の中でこそ生きてたよね。
ラストはわからなかったので解説探して見たよ。

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rahen

2.0音楽を愛しているのかと問いたい。

2023年12月30日
PCから投稿

音楽を愛しているのかと問いたい。

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thiroyasu

1.0これのどこが2023年のベストなのだろうか。

2023年12月27日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

難しい

率直に言って、2023年ワーストレベルの映画だと思った。
評論家の前評判も高かったので、期待して観たが、見事に裏切られた。

ストーリー自体は、実はシンプルと言えばシンプルで、いわゆる権力者の転落劇からの再起ものである。
誤解のないように言っておくが、べつにそういう話が嫌いなわけではないし、サイコホラーっぽい雰囲気は、寧ろ好みの話ではある。

ただ、それにしたって本編160分はいくらなんでも長尺すぎるだろう。
ダラダラと続く鈍重なだけのシーンの連続、散漫に敷かれただけの伏線。

そして最悪の元凶はあのラスト。
ラストが凄い!と言っている人が多かったが、あんな虚をつかれるような幕切れには閉口するしかなかった。

唯一、ケイト・ブランシェットの名怪演だけは素晴らしかったと思う。

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ガッキー

3.5アートとラット

2023年12月22日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

知的

 ベルリンフィルの著名な指揮者リディア・ター。レズビアンを公言していてバイオリン奏者のシャロンと養女と暮らし、フランチェスカを助手としていた。新曲の創作などで多忙の中、幻聴や幻影に悩まされる。そんなとき、以前指導していたクリスタの自殺を知り。
 TAR ターって、よくある名字なのかな、変わったタイトルです。浮気ばかりして権威を持った傲慢な男、TARを男に置き換えるとこんな人はよくいたなあ、と思いました。しかしTARは、純粋にARTを愛し、RATのように逞しい。なるほどアナグラムになっていたのか、上手いタイトルです。
 ケイト・ブランシェトに喝采。

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sironabe

5.0メタARTAR

2023年12月19日
PCから投稿

 いつの時代も偉大な芸術家がしでかした愚行は枚挙に頭がない。が、社会は変化し続ける。ネット社会は書き込み一つで作り手を容易く相対化し、マウントすることが出来る時代を出現させた。芸能人ももう、芸の肥やし、とは言っていられない情報ダダ漏れ社会が到来したのだ。画像一つで長年築き上げたキャリアが一瞬で吹き飛ぶ恐ろしい世界だ。
 が、表現自体が劣っているわけではない、不倫した芸能人の表現全てが否定されたわけで
はない。表現は、時代を作る。何故なら最良の表現は我々が知覚するこの世界より一次元高いところから「降りてくる」からだ。その時表現者は、誰でも無い。ただの容器なのだ。この映画の中でターが神と呼ぶものはそれである。だからあそこまで堕ちても同じように振れるのだ。我々大衆が乗り込んでいるネット社会もまた表現の一つと考えれば、それは相互に相対化し続ける螺旋構造を描いている。この映画のケイトブランシェットの名演が、奏でられる素晴らしい音楽がそれを二重に肯定している。
 メタフィクションが、ポップアートが問いかけた、創造力とは何なのか、という問いの答えは、まだ出ていないのである。何故なら、社会の基盤が変わり続けるからだ。この映画は今、もう一度、それを問う。これが表現の良心でなくて何だろうか。

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ソウイチ

3.0ラストシーンがいただけない⤵️

2023年12月19日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

TARター観ました

やり過ぎて悪趣味
まるでA24のホラー映画並み
傷ついた主人公をそこまでイジる必要ある?
過ぎたるは及ばざるが如し!
武士の情けが無い國の発想
付いて行けないわ🥲

それが感想

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あさちゃん

3.5ケイト・ブランシェットの演技力に❗️❗️ 一台のカメラで、永遠続く...

2023年12月19日
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鑑賞方法:VOD

ケイト・ブランシェットの演技力に❗️❗️
一台のカメラで、永遠続く講義シーンは、講義の内容も含めて息を呑んで引き込まれた。

好意を持って接してくる人は、扱い方を間違えると、とてつもない毒になる。気をつけなければ・・・。

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J417

5.0SNS世代によって駆逐される 旧世代の断末魔

2023年12月18日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「弱い者は去れ」。それでいいではないか。

昭和の人間として、同世代の同志=TARを観る。

・・・・・・・・・・・・・

東京藝大の指揮科は、入学定員は2名。
卒業しても安定した仕事場はまずない。
世界で活躍しているトップの指揮者など、ほんの片手の数だ。
厳し過ぎる前途だ。

TARは指揮者として、また教師としてどこかしら横暴なのだろうか?
僕はそうは思わない。
ついて行けない者はふるい落とされて脱落すれば良いことだ。
落後者たちは「自分にはこの教師に師事できるだけの素養も将来性もなかったのだ」と、黙して思い知れば良いだけのことだ。引けば良いのだ。
それでも熱い夢が続いているのなら、別の道を自身で探せば良いだけのことだ。

音楽院の学生でTARの助手を勤めるフランチェスカが、「冷たくされた」と思い込み、逆恨みをしてTARに対しての総攻撃を仕掛けたわけだが。フランチェスカは、自分が「甘ったれが許される幼稚園児」ででもあったつもりなのだろうか。

この映画作品は
【新世代と旧世代の断裂】、並びに
【旧い時代の終わる様相】をテーマとして、
「マエストラの失脚」というストーリーを題材に重ねて、時代の焦燥を厳しく抉っている。

「少子化」が、
世界中の経済と文化を蝕んでいるのだ。
「少子化」が、
人類の足跡、そして未来を破壊しているのだ。

=人手が足りない。
=労働者が集まらない。
だから採用基準は徐々にゆるくなり、クソを採用しなくてはならなくなっている。

宮仕えの正社員なんかになるよりも、彼らは即席YouTuberになって、脚光を浴びる丸儲けの人生を得たいと思っている。
彼らは市民として投票所に行くよりも仮想空間のメイドカフェでうつつを抜かしたいと願っている。
渋々就職はしてくれても、一週間で辞められてしまっては困るものだから、蝶よ花よと新人類は大切にされて、おだてられて、
そうして若者は大人の世界を舐めくさって、組織を(=オーケストラを) 掻き回してくれるのだ。

・・・・・・・・・・

【指揮者の日常を撮る貴重な映画】
劇中、
いくつかのクラシックの名曲が登場するが、メインは「グスタフ・マーラーの5番」だった。
冒頭の4音が「タタタター→、タタタター→、タタタター↗」と幽玄の彼方から聴こえてくるような、トランペットのファンファーレで始まる あれだ。

交響曲の作曲家たちは一つのジンクスを意識してきた、
それは第1に「ベートーヴェンの9番」についてのもの ―
《交響曲を9曲作った作曲家は死ぬという言い伝え》だ。
マーラーはそれを嫌い、8番と9番の間に「大地の歌」を挿入したのだが、結局彼も例外ではなく、9番を仕上げたところで彼は没した。
第2に、
ベートーヴェンの最高傑作「交響曲第5番=運命」を意識し、作曲家たちは取り分け自作の「5番」には自分の音楽家としての全てと、師ベートーヴェンへのリスペクト注ぎ込んできた。
ゆえに
マーラーが書いた「5番」のファンファーレは、ベートーヴェンの「5番・運命」の「タタタターン↘」の4音の音形をオマージュ引用している。
(※動画)

その「鬼門の5番」への挑戦。
そしてついに「9曲 全曲録音完成」のコンプリートだ。
何かが起こるに十分な序章だ。

ベルリン・フィルでのライブ録音に、満を持して挑戦するTARに「トラップ」が襲い掛かる。

・・・・・・・・・・・・・

【変質する情報社会】
今どきのゲーム世代や、SNSでの匿名中傷フリークたちが、親世代の大人の社会と、人類がここまで築いてきた荘厳な文化をあっという間に絶滅させてゆく時代。
人間の劣化。軽薄にして陰湿だ。
―その恐怖の有り様を、この「TAR」は見せてくれている。

孤高の教師TARに対して、
「死なばもろとも」と、報復の巻き添えを画策して自爆をした元弟子クリスタやフランチェスカ、
エルガーのチェロ協奏曲をやってのけた若者世代=フランチェスカ支持者のオルガ。
そしてパートナーのTARよりも風評を信じるシャロン。
そのどちらがより正しくて、より狂っていると思うのか・・
それは今現在のこの世界の趨勢が判断して、結論を出すことなんだろう。

爛熟した文明は、登りつめた栄華のあとに、いずれの地においても、戦争と倫理の乱れと疫病で没落していった。
頂点を極めたはずのあの都市たちは、どれもたがわず廃墟となり、滅亡した国家の遺跡と化している。
それは黄河、インダス、ギリシャ、そしてメソポタミア。
"あの没落” が、いまはとうとう全世界を巻き込む規模で、我々人類の歴史を爛熟から終焉へと導いて、自滅へ向かってスタートしているのだと、僕は思っている。

巷のニュースのすべてが物語るのは
山肌を1個の小石が転がり落ちるとき、僕らが見る現象=それは大きな山脈がいつかは崩れ去って跡形もなくなる未来の、それは紛れもない目撃であり、一コマなのだということ。
「そんな大袈裟な」と言われるかもしれないが、コロナよりもはるかに感染力が強く、人類をINTER-NETして伝播する新しいウイルスは
そこまでの破壊力を持っていると思う。

フェイクニュースが巷に流れる。
真贋の見分けがつかない動画も溢れる。
産業も 通信も 銀行も止まる。
それらは悪ふざけを競うハッカーたちばかりでなく
国家間での情報戦として、実弾と遜色ない威力で敵陣を惑わせ、民心を迷わせ たぶらかしている。

「何が本当のことなのか」
もう誰にも分からない世の中ではないか。
リアルよりバーチャル、
肉筆よりも 生成AI、
肉体労働よりも3Dプリンター、
面会よりもリモートだ。

熱弁を飛ばし、熱いタクトをふるい、
激しいジョギングで自分の雑念と闘い、
サンドバッグを殴って己の弱さを叩きのめそうとする指揮者のTARに、
僕は強く惹かれる。
が、そういう昔のおじんである僕は
小さなきっかけでTARと同じ「おやじ狩り」の標的となり生贄とされるんだろう。

顔面蒼白。白塗りのメイク。
時代遅れで、VHSテープを観ていて、若者文化に疎いTARは、スマホのチャットによって呆気なく葬られていくのだ。
これは明日の私たちの姿。

フィリピンの奥地に逃げて行ったって、そこには最早 着ぐるみの化け物しかいなかったというラストシーンに
鳥肌が立つ。
デジタルデトックスは、もうこの世では不可能なのか。

顔も声もない匿名のバーチャルワールドの隆興によって、早晩人類は滅ぼされてしまうのであろうけれど
「その前に、このわたしの断末魔も聞きやがれ」と
リディア・ターの目は語っているのだろうと思う。

・・・・・・・・・・・・・

マーラーの5番のファンファーレは、
世の終焉を告げる葬礼のラッパ。
世界の終わりを嘆く、絶望的な閉塞感と死の扉の軋みのように聴こえてならなかった。

·

(※)
楽譜付きマーラーNo.5冒頭動画
Curtain up for Mahler!
#trumpet#sheetmusic

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きりん