劇場公開日 2023年5月12日

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「メタARTAR」TAR ター ソウイチさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0メタARTAR

2023年12月19日
PCから投稿

 いつの時代も偉大な芸術家がしでかした愚行は枚挙に頭がない。が、社会は変化し続ける。ネット社会は書き込み一つで作り手を容易く相対化し、マウントすることが出来る時代を出現させた。芸能人ももう、芸の肥やし、とは言っていられない情報ダダ漏れ社会が到来したのだ。画像一つで長年築き上げたキャリアが一瞬で吹き飛ぶ恐ろしい世界だ。
 が、表現自体が劣っているわけではない、不倫した芸能人の表現全てが否定されたわけで
はない。表現は、時代を作る。何故なら最良の表現は我々が知覚するこの世界より一次元高いところから「降りてくる」からだ。その時表現者は、誰でも無い。ただの容器なのだ。この映画の中でターが神と呼ぶものはそれである。だからあそこまで堕ちても同じように振れるのだ。我々大衆が乗り込んでいるネット社会もまた表現の一つと考えれば、それは相互に相対化し続ける螺旋構造を描いている。この映画のケイトブランシェットの名演が、奏でられる素晴らしい音楽がそれを二重に肯定している。
 メタフィクションが、ポップアートが問いかけた、創造力とは何なのか、という問いの答えは、まだ出ていないのである。何故なら、社会の基盤が変わり続けるからだ。この映画は今、もう一度、それを問う。これが表現の良心でなくて何だろうか。

ソウイチ