「更なる高みへ」TAR ター komasaさんの映画レビュー(感想・評価)
更なる高みへ
努力と才能に見合った地位を手にした所から始まる転落劇。正しい選択をしても過程を誤れば正しい結果を得ることはできないのは当然のことだ。
しかし、主人公は最高の演奏を求められる世界一のオーケストラの指揮者だ。民主的に正しい方法で音作りをしていては、途中で確実に空中分解してしまうだろう。
であるならば、楽団内部に軋轢を抱えることになろうとも、己の芸術性と名声を武器に独裁者になることも必要だろう。しかし、今の社会はそこから出てくる小さな軋みも聞き逃さない。
であるならば、権威の城からの転落は必然ということになる。何とか生き延びられたとしても、この時点の彼女では望む成果にはたどり着けないだろう。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり。原点となった音楽への思いを取り戻したことで、新天地へと踏み出すことになる。
きっと、次こそは音楽への思いを忘れることなく、更なる高みを目指すのだろう。謙虚さや思いやり、用心深さと狡猾さも新たな武器にして。
…
バッハを否定する学生は、この作品の良き道標となってくれた。彼のシーンとラストシーンが、この作品の主たるテーマを表現していると思う。
…
演奏者のブラインド審査と、マッサージしてくれる女性を選ぶ水槽の対比は印象的だった。ただこの対比が何を表すのか、初見では理解できなかった。
コメントする