「ハラスメントとか不適切な言動とかする人の観察だと思う」TAR ター TK_Filmさんの映画レビュー(感想・評価)
ハラスメントとか不適切な言動とかする人の観察だと思う
この映画はハラスメントとか不適切な言動とかする人の観察だと思う。それが美しい描写とか迫力のある音楽とか迫真の演技とかがてんこ盛りで、ドキドキさせる演出もあるし、「なんか嫌だなー」とか「うわー」とか思いながら楽しむことができる。見てるとター自身はそんなに悪い人ではなくて、ただ色々間違ったことをしたんだなというのがわかる。それも突飛な理由とか背景がある訳ではなくて、誰でもターみたいな間違いを冒すかもと思わされる。
社会的な部分は社会のことをよくわかってないのであまりよくわからないけど、これが男の異性愛者の指揮者の話だったら、どんな職種・業界・職位でもよくある話で何も面白くないと思う。女でも、同性愛者でも、権力構造の上位に位置するときに間違い冒すし、権力者だからこそ厳しい目で見られたり悪意の的になったりする。男の異性愛者の指揮者という設定よりこの部分が際立つし、男の異性愛者にパワハラ、セクハラされたことのある人達が実際に多いことを考えると、女の同性愛者の指揮者の話の方がより多くの人にとって見やすいように思う。でも女や同性愛者は現実では男や異性愛者より冷遇を受けやすいと思うので、そういうのがあまり描かれてなかったのは違和感がある。それとも男性指揮者がキャンセルされても異国でゲーム音楽の指揮の仕事を受けなきゃいけない窮地には陥らないのかな(笑)。
あと見てて思ったのは、ターは自分の本名を捨てて指揮者としてキャリアアップして、ショボいアメリカの実家からは想像できないようなお洒落なヨーロッパ風の生き方をしていて、権力ではなくて「いい暮らし」とか社会的に高い評価を受けるとか、そういうことと自分のルーツとの折り合いを付けるのは難しいのだなと思った。ターほどの金も地位も無いけども、実家と自分個人との生き方や経済状況の違いは、なかなかスッキリとした説明がつかないし、家族だからって資産を統一するわけじゃないし、人間て決定的に寂しいなと思わされる映画だった。