劇場公開日 2023年5月12日

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「権力の魔性」TAR ター ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0権力の魔性

2023年5月25日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

週刊文春の映画欄で辛口評者5人中4人が5つ星を付けていたので、気になって観に行ったが、まさかここまで難解な映画だとは思わなかった。ネットのネタバレサイトなどを読み込みようやく理解ができるようになるまで多くの時間を要した。なにしろ不親切な映画なのである。送り付けられてきた本の表紙をターはなぜ破いて捨ててしまったか、ターは足を踏み外して転んだだけで顔にあんな大ケガをするのか、ラストシーンの観客はなぜみんなコスプレをしていたのか、なんの説明もない。また、自殺したクリスタという物語のキーとなる人物はどこに出演していたのか、わからない。観賞後は疑問点ばかりだったが、それを1つ1つ解釈できてくると、実に多層的で奥深い映画ということがわかり、もう一度観てみたいという気持ちになった。
ターはクラシック界では数少ない女性指揮者であり、レズビアンを公表していてパートナーとともに養子縁組の子供を育てている。いわばマイノリティの側に位置している人間であるが、ベルリンフィルの首席指揮者という世界的な権威としてマジョリティの側で権力を行使する立場になっている。結局、マイノリティだろうと、権力の側に立ってしまえば権力に支配されるということがわかる。権力者というのは自分では高尚で倫理的な振る舞いができている人格者だと思い込んでいるが、罪に意識がなく相手を傷つけていることがある。権力の存在に気付かないのは権力者本人なのだ。
こういう権力者の横暴の物語を観ると、同じエンタメの世界で同じ同性愛者ということもあって、日本のジャニーズ事務所性加害問題が想起せずにはいられない。権力の絶頂期にはなにをやっても許されてしまっても、満つれば欠けるのが世の習いであるならば、必ずどこかで(死後であっても)しっぺ返しをくらい、人々に与えた不利益の重い代償を払わなければいけない。しかし、一度でも成功を収めた者は転んでもただでは起きず、後で再生してくることがあるのも世の習いである。

ミカエル
humさんのコメント
2023年5月29日

権力の魔性は蓄積し自他を惑わし最後は自分自身が1番苦しむ。でも権力を持っていてもそうならない人もいる。その差は一体?
TARは、苦しみながらもリスタートできた。全盛期とは程遠いかもしれないけれどチャンスを掴めたのは才能と運と過去の栄光にしがみつかない勇気があったから。越えたこの先の彼女は(自分の)権力に支配されずまた輝けるような気がしました。

hum
talismanさんのコメント
2023年5月25日

こんにちは。私は2回見てある程度レベルですが、わかりました。あと、最初見てからパンフレットを熟読しました。それで面白さが半減することなく、仰るように多層的でアクチュアルで凄い映画だと思いました

talisman
Mさんのコメント
2023年5月25日

私も二回目に見て、自分の評価が上がるのを楽しみに見直したのですが。たまたま近くに途中で携帯をつけるような人がいて、映画に集中できず、そのままの評価になってしまいました。
私は音楽への信頼と主人公の再生の物語として見たのですが、もしかするとこの映画を作った人たちは権力者の横暴を一番に伝えたかったのかもしれませんね。

M