「サスペンスでもミステリーでもない」TAR ター kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
サスペンスでもミステリーでもない
クラシック音楽はあまり得意ではない。好きな曲もあるが、幅の広さと奥深さに尻込みしてしまう。そもそもポップスやロック、ジャズの感覚で考えるとクラシック音楽はすべてカバーなんだよ。指揮者の解釈・演出で曲の聴こえ方も変わってくる(らしい)が、それも細かいディテールの話。素人には誰の指揮したバージョンがこう違う!なんてことはわかりもしない。
本作でもリディアがもっとこう!なんて指導して演奏を変えてもその違いはよくわからない。でも指揮者がオーケストラの中でどれだけ力を持っているのかがわかれば十分。スキャンダル的なものに巻き込まれて、精神が不安定になっていく様は緊迫感があってよかった。
ただ、最終的にモヤモヤが残る。それもかなり。あの人がやってたのか!とか、実はそうだったの?なんてことが明らかになるわけではない。成功者の転落が淡々と描かれるだけだ。え?これで終わりなの?と思ったのは私だけではないはず。映画ってそういうもんだよな。整合性があるものだけが面白いというわけではない。
そして主人公が女性指揮者で、レズビアンで、パワハラセクハラの疑惑があるという設定が現代的だと感じた。今までなら男の指揮者でパワハラセクハラしまくる主人公になっていた気がする。セクハラやパワハラについては真相がはっきりしなかったこともあるが、リディアがそんなに悪いやつだとも思えないでいる。人が落ちていくのはなんと些細な理由なんだろうという気持ちになってしまう。それが監督が伝えたかったことなのか?
コメントする