「前作を復習しておかないと、見落として忘れてしまっていることも多々あり、“一回見てもよく分からん?"ことになってしまいがちです。」キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5前作を復習しておかないと、見落として忘れてしまっていることも多々あり、“一回見てもよく分からん?"ことになってしまいがちです。

2025年2月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

 「アベンジャーズ」シリーズをはじめとしたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)で中心的役割を担ってきたヒーローのキャプテン・アメリカを主役に描く、「キャプテン・アメリカ」のシリーズ第4作。MCU映画としては第35作目にあたります。
 本作は、アンソニー・マッキー演じるサム・ウィルソンが新たなキャプテン・アメリカとして映画デビューを果たします。

●ストーリー
 初代キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースから最も信頼され、ヒーロー引退を決めたスティーブから“正義の象徴”でもある盾を託されたファルコンことサム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)が、フラッグ・スマッシャーズとの戦いを通して、“キャプテン・アメリカ”を正式に襲名し、新たなキャプテン・アメリカとなっていました。同時にサムの友人で協力者であったホアキン・トレス( ダニー・ラミレス)は、サムからスーツを託され、2代目“ファルコン”を襲名していたのでした。
 そんなある時、アメリカ大統領サディアス・ロス(ハリソン・フォード)と面会した後、サムは世界規模の事件の渦中にいることを知ります。
 やがてロスが開く国際会議でテロ事件が発生します。それをきっかけに深刻化し、世界大戦の危機にまで発展してしまうのです。各国の対立が混乱を収束させようと奮闘するサムでしたが、全ては“ある人物”によって仕組まれた陰謀だったのです。サムは、キャプテン・アメリカとして新たな陰謀の背後にある脅威に立ち向かうこととなる。 そんな彼の前にレッドハルク(赤いハルク)と化したロスが立ちふさがるのです。

●解説
 本作は、ドラマ版でのサムの葛藤と決意を通じて、新たなキャプテン・アメリカが誕生し活躍する物語としては、ふさわしい作品です。ただしドラマ版『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』を見てない人にとって、本作につながるのは2019年に公開された『アベンジャーズ/エンドゲーム』以来のエピソードとなります。そのためすっかりキャプテン・アメリカが代替わりしてしまっていたことすら忘れてしまい、違和感に苛まれることになってしまうでしょう。またストーリー面でもドラマ版を前提にした展開(本編だけだとスティーブから盾を引き継いだサムしか見てないので、サムの葛藤や心細さが理解できないし、決意の大きさも見えてこない)や、見落として忘れてしまっていることも多々あり、“一回見てもよく分からん?"ことになってしまいがちです。極力アベンジャーシリーズのおさらいとドラマ版を視聴しておくと、違和感なく本作の作品世界に没頭できることでしょう。

 ただし、本作は映画『インクレディブル・ハルク』(2008)とも因縁が深い作品です。今回の事件を裏で操っていたのは、ミスター・ブルーことサミュエル・スターンズでした。スターンズは『インクレディブル・ハルク』 に登場した細胞生物学者で、ハルクとなったブルース・バナーを助けていた人物です。また本作では、ブロンスキーが暴れ、ハーレムでハルクと衝突した事件について語られています。この時、ロス将軍はブロンスキーを率いて“ハルク狩り”を行っており、「ハルク・ハンター」の異名を得たことも明かされるのです。本作は、『インクレディブル・ハルク』後のロスとスターンズのその後を描いた続編とも言えなくないので、同作の復習もお勧めしておきます。

 ストーリーの大きなポイントは、サムが新生キャプテン・アメリカとして世界から認められて、新たな脅威に向けて、アベンジャーズの再建を暗示させているようなストーリーであることです。ロス大統領から打診されてサムも乗り気になっていました。今回は予感で終わりましたが、今後の展開が楽しみなところです。
 次ぎにお話しのベースとしては、映画『エターナルズ』(2021) でインド洋に登場したセレスティアル島で採掘できるアダマンチウムの争奪戦です。アダマンチウムは稀少金属でウルヴァリンの骨格と爪に結合している物質としてよく知られています。 このアダマンチウムを巡り、まず冒頭では、サイドワインダー率いる暗殺部隊が奪ったサンブルの奪還をロスから依頼を受けたサムが奪還するというもの。ヒーロー物では少ない、接近戦の迫力ある映像が続きました。
 ところでこのアダマンチウムを精製したサンプルは、日本が開発したものなのです。奪取し、その黒幕がロス大統領であるという情報が尾崎首相(平岳大)にもたらされたことで日米関係は悪化することになります。それどころかセレスティアル島に進出した海上自衛隊と米太平洋艦隊が軍事衝突寸前まで発展してしまうのです。まずアメリカと事を構える肝の据わった総理大臣なんて現実にはあり得ません。しかもわが国憲法の専守防衛の原則を踏みにじって自衛隊が太平洋艦隊に先制攻撃を仕掛けるわけがないのです。この辺の展開のなかで、まだまだハリウッド映画界の中に、日本に対する偏見と無知が強いことを窺い知らされました。

 もう一つストーリーのポイントをあげるなら、「普通の人間がキャプテンアメリカを継ぐ」ことにあります。サムはスティーブと違い超人血清を打っていない普通の人間でした。それがサムにとってキャプテン・アメリカの重責を担うことのコンプレックスだったのです。特に相棒のホアキンに重症を負わせてしまったことから、自分も超人血清を打つべきであったと落ち込みます。
 そんな時、背広姿のパッキーが突然現れて、「スティーブでも救えなかった命がある」とサムを励ますシーン励ますは泣けてきました。
 そんな普通の人間であるサムが「超人血清の象徴であるハルク」と闘うラストシーンは印象的です。しかも武器を持たず、キャプテンアメリカとしての"慈愛の大きさで説き伏せてしまうのです。サムの人柄を偲ばせるシーンでした。

●最後にひと言
 ハリソンフォードの引退宣言が発表されてしまいましたが、できればロスとして再登場を願っています。

流山の小地蔵