「【”詐欺師だから、騙しただけだ・・。”今作は、全世界に広がる振り込め詐欺やIT犯罪を抑止する映画でありつつ、内容が非常にリアルな作りになっている一級の犯罪映画なのである。】」声 姿なき犯罪者 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”詐欺師だから、騙しただけだ・・。”今作は、全世界に広がる振り込め詐欺やIT犯罪を抑止する映画でありつつ、内容が非常にリアルな作りになっている一級の犯罪映画なのである。】
■釜山の建設現場で働く元麻薬捜査官の作業員、ハン・ソジュン(ピョン・ヨハン)は危険な高所作業で一生懸命に働いている。
だが、家庭を護る妻ミヨンの所に、”夫の瑕疵により事故が起きたが、今なら示談で済ませられるから、指定口座に7000万ウォンを振り込んでください。”と冷静な声で、キム・ヒョンスを名乗る弁護士から電話が入り、慌てたミヨンは口座に金を振り込むが、漸く電話がつながった夫と話し、全財産を騙し取られた事を知り、交通量の多い道路の真ん中で立ち尽くし車に轢かれてしまう。
更には工事所長も金を騙し取られ、作業員たちの給料が払えなくなり、自殺してしまうのである。
そんな中、ベッドに横たわる妻の姿を見たハン・ソジュンは、詐欺グループへの復讐を誓うのであった。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・非常に恐ろしくも、良く出来た振り込め詐欺映画である。日本でも近年多発している振り込め詐欺であるが、今作で描かれているように、組織のヒエラルキーのトップにいる首謀者は自らの手を汚さずに、掛け子、受け子たちに汚れ仕事をさせて、自分は稼いだ金の多くを得るという構図が良く分かる。
・更に、韓国国民をターゲットにしながら、コールセンターは中国にあるという設定もIT犯罪あるあるであり、観ていてリアルに感じる要因になっている所も、流石である。
・ハン・ソジュンが、細い伝手を伝って中国のコールセンターの従業員になり、帝王の様に振舞う詐欺師のクァク先生(キム・ムヨル)の姿を見るシーン。
ー キム・ムヨルは、近年の韓国映画で注目しているコメディから悪役迄こなす演技派俳優であるが、今作でも彼の演技が素晴しいので、この作品にリアリティを与えているのである。が、所詮クァク先生も、組織の一部である事が分かる”彼に掛かって来る電話のシーン”は非常に怖い。
・だが、ハン・ソジュンが命懸けでコールセンターの位置を、韓国警察のギュポ捜査官(キム・ヒウォン)に知らせ、韓国警察が詐欺団150人を一網打尽にするシーンは、ハラハラであったが、爽快であった。
■これは私見だが、日本の刑法246条の詐欺罪の量刑は、厳罰化が進んでいるとはいえ軽すぎると思う。最大20年の拘禁刑であるからである。
日本で、詐欺に遭って今作の所長の様に自死している人が、年間何人いるか知っている方も多いと思うが、組織の首謀者は終身刑(減刑なし)。受け子も掛け子も最低10年はぶち込むべきだと思う。
一罰百戒である。そして、それをメディアでもっと流すべきである。”振り込め詐欺には気を付けましょう”と呼びかける事は勿論大事だが、額に汗せずに真面目な人達から金を騙し取る輩は、甘い汁を一度吸うと何度捕まっても刑が軽いと、直ぐに出所し、犯罪を繰り返すからである。
<今作のラストで、韓国警察のギュポ捜査官がTVで言った言葉は尊い。
”被害者の方はご自身を攻めてはいけません。”
自死した方の多くは、自責の念と、高齢者であれば子や孫から激しく叱責されて、絶望して命を絶つ方が多いからである。
今作は、全世界に広がる振り込め詐欺やIT犯罪を抑止する映画であり、内容もリアルな作りになっている一級の犯罪映画なのである。>