「寓意が先行して、かなり辛かった」地下室のヘンな穴 Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
寓意が先行して、かなり辛かった
◉欲望に特化した2組のカップル
通り抜けると三日分若返る穴が、地下室に開いている。それを知った妻は毎日、ジョギングのように穴を通る。夫はむしろ止めたい。やがて若返った妻はモデルとして売り込みを始めが、失敗を繰り返すと言うのが、ストーリーA。
社長が人工ペニスを自慢する。しかしペニスが故障して、慌てた社長は日本で修理を受ける。めでたく回復した社長は手当たり次第に女性遍歴を重ねるが、ペニスが加熱して事故を起こしてしまうと言うのが、ストーリーB。
AもBも、時の流れをねじ曲げて若さを追い求めたりすれば人は行く先を見失い、崩壊してしまうと言った寓意を表しているのだなと思いました。実際、可笑しくも必死に若さ=蘇りを願う人たちの姿が描かれてはいました。でも死んだとは言え滑稽な幕切れ(社長)と、かなりゾワッとする終幕(妻)。
ところが、夫も妻も社長も社長の愛人も、本当に我欲のみの身勝手人間にしか見えなかったです。美貌、性欲、物欲、自分だけの時間……。
主人公の夫と妻の困惑や、互いの説得・協力とかが見えなかったし、社長と愛人に至っては、性と物に取り憑かれて、端からお互いを理解しようと言う気持ちも存在しない。
だから当たり前の感情移入がしにくかったと言うのが、この作品の感想でした。妻の行動を見て、じゃあ穴を埋めようと言う夫は、何とも無関心で冷たすぎる。も少し、寄り添いましょうよ。
◉ヘンな穴が見えてこない
例えばホワイトアウトなどの画像効果を使ったり、穴の外見を描き出すとかして、地下室の穴を表現できたとも思います。しかしそうした映像はなかった。
見る側は「ヘンな穴」のミステリアス性にも浸りたかったのです。そもそも不思議な穴を知った上で、客に家をセールスする業者の存在自体が奇異な訳ですから。
もしかすると、業者は穴の力に引き込まれる人を待っている悪魔の一族とか……そんな話でも決して悪くなかった。
制作者側にしてみれば、この作品を完結させるために、あくまで概念としての穴を強調したかったのでしょうね。
ただ私としては、このような寓意を様式的に表現した作品に、深い味わいもサスペンスも、あまり感じ取ることができなかったです。もしかしたら、フランス映画には不向き?
病んだ人と痛んだリンゴが結びつく、最後のシーンが作り過ぎた痛々しさに溢れていたように感じました。