「ノースカロライナ湿地の美しさ、そして最後の鮮やかな大逆転劇で強く印象が残る」ザリガニの鳴くところ Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
ノースカロライナ湿地の美しさ、そして最後の鮮やかな大逆転劇で強く印象が残る
オリビア・ニューマン 監督による2022年製作(125分/G)のアメリカ映画。
原題:Where the Crawdads Sing、配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント。
女性動物学者ディーリア・オーエン(1949年米ジョージア州生まれ、ジョージア大で生物学を学びロサンゼルス大デービス校で博士号、同じくジョージア大で生物学学んだ夫と共にアフリカに長年移住)の初めてのミステリー小説(2020、世界で1500万部以上の大ベストセラー)が原作。
原作は読んでいなく、日本語版を視聴。
何より、ノースカロライナの湿地の自然及びそこで生きる生物の美しさ、更にそれらを描いた主人公カイヤ(デイジー・エドガー=ジョーンズ)によるスケッチの精巧さと見事さに心が奪われた。
カイヤは、前途有望な若者チェイス(ハリス・デイキンソン)死亡事件の殺人容疑者ということで登場する。カイヤの、母親は夫の暴力で逃げ出し兄弟更に父親も居なくなり、大自然の中でただ1人、学校にも行かず貝の採取で生きてきた少女という設定には、類型の覚えも無くかなり驚きを感じたが、原作自体の力だろうか物語的にとても面白く、随分と引き込まれてしまった。
彼女の初恋相手がテイト(テイラー・ジョン・スミス)。彼は親切な青年で、カイヤに文字を教えてくれて、図書館で生物学を学ぶことも教えてくれる。ただ、観客の予想通りというか、彼は都会の大学に行ったままで、約束を破って戻ってこない。そこに現れたのが町の有力者の息子でハンサムなチェイス。カイヤは彼と関係を持つのだが、彼はどうやら婚約者もいる様で遊びの相手だった様。
正直、人気者のチェイスが何故凄い美人でも無いエドガー=ジョーンズ演ずるカイヤを誘惑しようとしたのかには、説得力をあまり感じなかった。映画の中でも、取り巻きに不思議がられてもいたのだが、納得がいく説明はなかった気がした。一方、テイトはカイヤ無しでの生活は意味が無かったということで、湿地に戻って来て湿地研究の職も得てプロポーズしてくれる。カイヤ、どうしてそんなにモテるの?とは思った。
とは言え、殺人で起訴されたカイヤの弁護士トムによる法廷劇は、見どころ満点で面白かった。検察は、チェイスが身につけていた貝殻のネックレス(カイヤがプレゼント)がなくなっており、カイヤによる犯行と主張。弁護士役デビッド・ストラザーンの演技が実に見事であり、事件時被告は別の町におり、僅か1時間でバス移動による殺人を冷静に敢行する必要があり、とても無理でしょう。無垢な彼女を容疑者とするのは“湿地の子“と見る偏見からでしょうと、陪審員に強く訴えかける。その結果、めでたく無罪ということになる。
その後カイヤはテイトと結婚し、湿地の生物たちを本にして何冊も出版。当初テイトが怪しいと思っていた私だが、どうやらそれはハズレで、事故ということらしいと納得するのだが、最後に静かな大逆転劇があった。
自分も上手く騙されたと、思わず拍手を送りたくなる幕切れであった。見ている時は気が付かなかったが、主題歌はあのテイラー・スウィフト作詞作曲による書き下ろしのものだそう。
監督オリビア・ニューマン、製作リース・ウィザースプーン、 ローレン・ノイスタッター、
製作総指揮ロンダ・トーレフソン、 ベッツィー・ダンバリー、原作ディーリア・オーエンズ、脚本ルーシー・アリバー、撮影ポリー・モーガン、美術スー・チャン、衣装ミレン・ゴードン=クロージャー、編集アラン・エドワード・ベル、音楽マイケル・ダナ、オリジナルソングテイラー・スウィフト。
出演
デイジー・エドガー=ジョーンズカイア(高橋雛子)、テイラー・ジョン・スミステイト(近松孝丞) 、ハリス・ディキンソンチェイス(小林親弘)、マイケル・ハイアット(斉藤こず恵)、スターリング・メイサー・Jr. (楠見尚己)、デビッド・ストラザーン(牛山茂)。