「それでいいんだよ」そばかす もいさんの映画レビュー(感想・評価)
それでいいんだよ
これを見る直前に「正欲」を観たのだが、正欲での神戸八重子を重ねてしまった。八重子と佳純は真逆の性格だけど、他者(男性)に恋愛感情を抱かないという点で共通がある。
八重子はそもそも男性が苦手で近くにいるだけで発作を起こしてしまうような体質だが、佳純はそのようなナイーブさは持ち合わせておらず「自分は自分だ」という芯が通った性格。三浦透子さんのあのずっしりとした構えと貫禄のあるお芝居にはなんだか安心した。(ドライブマイカーでは虚無感が漂っていたが、本作では色んな感情が表れていてとても良いです。)
目の前に男と女がいたら、何らかの関係性を見い出したくなってしまうのが人間の性のように思える。恋人?夫婦?それ未満の関係性?…そのほかにも兄弟とか友達とか、友達じゃなくてもただの同級生とか、男女関係以外の関係性ってあるはずなのにね。あってもいいのにね。なぜ私たちは枠に当てはめたがるのだろうか。
佳澄を見ていると、「それでいいんだよ」と声をかけたくなる。家族に色々言われてもそれでいいんだよ、チェロを辞めてその後にまた弾いてもいいんだよ、自分の感情と無理に向き合わなくてもいいんだよ。 そう思えたのは、うつ病の父が佳澄に向ける眼差しや慰めの言葉があったからかもしれない。自分のことで精一杯なはずなのにさ、娘のためにチェロ手入れして…。父娘の何ともない短い会話が温かみに溢れていてとっても素敵だった。だから途中から、あの父のような目線で佳澄を見ていたのだなぁ。
あと、前田敦子さん演じる世永が実の父親に向かって激昂する場面があるのだが、あの迫真の主張も素晴らしかった。耳を本当に真っ赤にしながら、心臓から拳が出てきそうなくらいの演技…胸を打たれました。