「恋愛しないのかそれとも恋愛できないのか...どっちでもOKだろ!! 周囲からの善意の押し付けにめげず自分なりの幸せ探しの映画」そばかす O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)さんの映画レビュー(感想・評価)
恋愛しないのかそれとも恋愛できないのか...どっちでもOKだろ!! 周囲からの善意の押し付けにめげず自分なりの幸せ探しの映画
一昨年前に『ドライブ・マイ・カー』で一気に注目された傍ら、歌手としても高く評価されている三浦透子さん演じる他人に対して恋愛感情を抱かない女性が自分なりの幸せを追い求める、劇作家出身の若手監督玉田真也さんのヒューマンドラマ作品。
いわゆるマイノリティーの人々を主軸に据えた物語ではあるのですが、画一的な社会的到達目標へと誘導される息苦しさや、己の内容に在る度し難い感情を他人の尺度で決めつけられてしまう悔しさは誰にでも身に覚えのあるところであり、展開に派手さは無いもののいわば個々人の感情の細やかな機微にじっくりフォーカスしたまるで一眼レフカメラの如き繊細な作風です。
音大を出たものの音楽家になる夢を諦めて実家へ戻って早や数年、特にこれといった目標を見出せず気ままに働く女性が30歳になったことを機に今まで以上に親族から結婚を迫られる。時に家族とぶつかり合いながらも級友たちの言葉や生き方に励まされつつ、自分なりの幸せの形を模索していく物語。
基本的に性悪な人間は登場せず、ショッキングなシーンや俗に言う胸糞展開もありません(一見して優しい物語かと思いきや…という引っ掛けでもないのでご安心を)ので、それだけに観客は普段の生活の中での主人公と周囲の人々との何気ないやりとりが起こす小さな波風に目と耳を澄ませることになります。
マイノリティーの人々への配慮が高らかに叫ばれる昨今ですが、本作を観るにそもそも"配慮"というあからさまな行為然とした行為が却って異物視を助長し、結果として相手にプレッシャーを与えてしまっている矛盾をつとに感じもします。
マイノリティーと呼ばれる方々の権利を制度として保証するのがお役所であるなら、そうした人々を殊更にマイノリティーとして特別視せず全き隣人として接するのが一個人のあるべき姿かと思いますし、それがマイノリティー同士でしかなかなか成り立っていない社会の現在地を淡々としかし確かに示しているのが本作の強烈といえば強烈なところでしょうか。