「多様性とは何なのか?」そばかす TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
多様性とは何なのか?
昨今「多様性を尊重することは常識だ」と言わんばかりに政治、企業、教育の場において「現代的な社会性」として語られ、我々も多くの状況で「啓蒙」を受けることが多くなりました。しかしながら、実際には(少なくとも私が知る)日本の状況下において、多様性への理解はまだまだ常識に程遠いレベルだと感じています。当作品内の1シーンで(政治家が)「多様性とは言え常識の範囲で」というセリフがあります。「常識」?「多様性」?まるで禅問答のようですが、、、そもそも多様性とは何なのか。
様々な作品でも題材として取り上げられることが多くなった多様性ですが、中でも多いのはセクシャリティや恋愛に関する対象、感情、指向などについての話で、この作品もその部類が基本にあります。
なかなか面白い切り口だなと思ったのは、作品後半のある登場人物から発せられる「レズなんでしょ」というセリフ。「LGBT(Q)」という言葉が知られるようになり、恋愛対象というものが「ヘテロセクシャル」「ホモセクシャル」、或いは「バイセクシャル」かまでは「違い」として認識されるようになってきました。しかし、実際にはそんな言葉・種類に収まらないのが多様性です。要するに我々の殆どはまだまだ多様性を「知ってるつもり」。ましてや言葉で「種別」すること自体、多様性に反します。
(さて、長くなりましたがそろそろ映画評に入らないと。)
主人公の佳純(三浦透子)は恋愛に対する自分の「特異」な考え方に生きづらさを感じています。それでも生活のためとはいえ「コールセンター」や「保育士」など割とストレスフルな仕事を選んだり、また頼まれたり誘われたりしても一度目から断らずに出向くところなど、結構タフだし、まだちゃんと「どこかに期待がある」と信じている人です。おそらくそれは中学時代に一度ある人に「(自分を)肯定された」ことを支えに出来たから。そんな佳純も30歳になり新たな人生が動き出し、まさに思い悩んでいるところで再会する「恩人ともいえる友人」。そしてまた影響を受けて一歩踏み出す佳純。いよいよいい巡回かと思いきや、、、でも、終盤そんな佳純に影響を受ける人達が出てきて、この展開は素敵の一言です。家族での朝食シーンもいいですね。
そして多様性を理解する上で重要な点に気づきます。それは佳純自身が他人の多様性に無頓着なところ。そして自分が支えられたように必ず「肯定」して言葉にします。おそらく「この達観」こそが、多様性を理解する上でのゴールで、そこからがまさに新しい社会性のスタートなのではと思います。
それにしても前田敦子さん、今回も素晴らしい。そしてドラマ『架空OL日記(17)』の頃から存在に気づいて注目していた三浦透子さん、『ドライブ・マイ・カー(22)』で知名度も上がり今後の「主演」も多くなりそうですが、今作はまさに「いい役」だったのではないでしょうか。今後も期待です。そして、『架空OL日記』と言えば佐藤玲さん。こういう役やらせたら上手過ぎて、もうこういう人だと思われがちなんじゃないかと心配しつつも、トイレに向かうシーンのちょっとした仕草はアドリブなのか、演出なのか、細かい動きに「やるな」と思わせてくれます。
ああ、なんか評はまとまらなかったけど、いろいろ考え、思わせてくれるいい映画でした。