「「エンタメ作品におけるワクワク感」が本作では今いちだったのです。」映画 イチケイのカラス 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
「エンタメ作品におけるワクワク感」が本作では今いちだったのです。
今年の興行は、テレビドラマの実写映画化作品、いわゆるドラマ映画が鍵を握っています。そう思えるほど、ドラマ映画の数が多いのです。
その年明け最初の作品が、本作です。スタート3日間の興行収入は2億4000万円と悪くはありませんが、ヒットとは呼べないでしょう。
原作はコミック。裁判官と弁護士を主人公に、海難事故と企業の闇をめぐる話を並行して描いていくもの。
コミカルな調子で進むように見えて、作品の芯にはズシリと重いテーマがありました。国と地域社会の問題を、重ね合わせたような中身を持つからだ。興味深い試みではあると思います。
舞台は、岡山県のとある企業城下町。住民のほとんどが、一企業が生み出す雇用や利益の恩恵を受けていました。外部の批判的な視点は乏しく、内部の身内意識に支えられる常識がすべてに優先する地域というくくり。身内意識が同町圧力として張りめぐらされ、時に隠蔽へとつながっているのです。
刑事裁判官の入間みちお(竹之内豊)がイチケイを去ってから2年。岡山県秋名市に異動したみちおは、とある傷害事件を担当することとなりました。事件は主婦の島谷加奈子(田中みな実)が史上最年少で防衛大臣に就任した若きエリート政治家・鵜城英二( 向井理)に包丁を突き付けたというもの。
事件の背後には島谷の夫の秀彰( 津田健次郎)が犠牲となった、貨物船と海上自衛隊イージス艦の衝突事故があり、その事故も不審点だらけのものでしたが、イージス艦の航海情報は全て国家機密に該当するため、みちおの伝家の宝刀たる職権発動も通用しなかったのです。
一方、裁判官の「他職経験制度」を活用して弁護士に転身した坂間千鶴(黒木華)は、奇しくもみちおの赴任先の隣町に配属され、地元の人権派弁護士・月本信吾(斎藤工)とバディを組むこととなりました。人々の悩みに寄り添う月本に次第に心惹かれていく坂間でしたが、そんな中、町を支える地元の大企業・シキハマ株式会社のある疑惑が浮上するのです。
二つの事件に隠された衝撃の真実。それは、決して開けてはならない「パンドラの箱」だったのです。
入間みちおと入間の元同僚で裁判官の他職経験制度を利用して弁護士をしている坂間千鶴は、いわば企業城下町の他者。部外者の視点を持つ存在です。
イージス護衛艦と貨物船の衝突事故、地元企業による環境汚染疑惑がひょんなことからリンクし、企業城下町が抱える身内意識が暴かれていきますが、入間と坂間の前には巨大な圧が立ちはだかるのでした。
問題は、このような体裁が面白いのかどうかということ。そこが興行の一つの鍵になってくるわけですが、正直に言えば疑問が残りました。「エンタメ作品におけるワクワク感」が本作では今いちだったのです。
ワクワク感とは、話の展開の妙と、それを支えるダイナミックな映像が基本線です。本作は、そこが物足りません。
軽い調子の裁判官と弁護士が、いかに国や社会の問題多向き合うのか。複雑極まる権力、社会構造は、安手の正義感などでは歯が立ちません。裁く側と裁かれる側の間に、もっと強烈な対峙関係がほしいと感じました。そのためには、闇の深部に迫る話の膨らみが必要だったと思います。やはり映画版なら、そこまでしないとワクワク感=面白さに行き着かないことでしょう。。
具体的にいうと、イージス艦の衝突事故のほうは物語の進行と共に、どんどん脇に追いやられていき、いつの間にかシキハマの環境汚染疑惑に絞られていく展開には、ガッカリしました。やっぱり国策に触れる問題には、みちお同様にフジテレビも職権発動とはならなかったようです。公開前夜に放送されたスペシャルドラマのほうが、二つの事件の裁判が次第に巧みにリンクされていくというよくできた脚本だっただけに、残念です。