「どこまでの知識を想定してみるのかがわかりにくい…(補足入れてます)」映画 イチケイのカラス yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
どこまでの知識を想定してみるのかがわかりにくい…(補足入れてます)
今年16本目(合計669本目/今月(2023年1月度)16本目)。
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★ ここ数年で見た映画の中では群を抜いて法律系知識の理解が要求されます。
以下、採点ほか参考などは、行政書士の資格持ちレベルの知識と調査によるものです。
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予告などから相当特殊な知識は要求されるのだろう、ということは覚悟してみました。
結果、「うーん、マニアだなぁ…」というところです。その場で全部理解してみるのはリアル弁護士かそれに準じる方(予備試験は合格しているとか)に限られるんじゃないか、ついで、司法書士や行政書士など隣接職と呼ばれるグループ(私はここ)で、正直、法律エンターテイメントの映画の体裁をとりつつ、きわめて特異な知識が要求される映画です。
ストーリーの展開については多くの方が触れられていて、他言を要さないのであえてカットします。
恐ろしく高度な知識が要求される映画で、これは「ちょっと前提知識がないと無理じゃないか…」と思えるタイプです。
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(減点1.0(すべてまとめて)/どういう層を想定しているのか理解が困難)
・ おそらく、ドラマ版?アニメ版?などの原作のファンを想定して作っているため、法律的な部分の描写は「一応は調べている」ものの、細かい説明が何もないため、かなりの方が???な展開に巻き込まれてそのまま理解がわからないまま終わってしまう…という類型は考えられるというところです。
もちろん、「原作重視、応援枠」としてみる立場も理解はできますが、かなりの部分で「つまり」が生じます。
以下、本当に最低限のことだけ書きます(5000文字では収まりません)。
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(参考/序盤の「職権を発動する」は何か)
・ 刑事訴訟法128条(裁判所は、事実発見のため必要があるときは、検証をすることができる)を指しているものと思います。
(参考/自動車事故と免許の話で「あとは行政訴訟」といっているところ)
・ 交通事故を起こすと、基本的に刑事事件と行政事件がセットで登場します。前者は「交通事故を起こしたものへの処罰」、後者は「そういう事故を起こすものへ免許を取り上げるかどうか」といったものです。
そしてこの2つは違う裁判に属しますので、一方で無罪になってももう一方には何ら関係がなく、無罪になったことを根拠に運転免許(映画内では、優良運転免許証)をとりもどすには、別途取消訴訟(行政事件訴訟法)が必要です。映画内でさしているのはこれです(行政事件訴訟法は特に「訴えの利益」が問われますが、ここは認められるケースです(同趣旨判例あり。行政書士試験で必ず学習するお話です))。
(参考/自転車を勝手に乗り回す行為と民法との関係)
・ 刑法上触れるのみならず、民法上、所有権に基づく所有権侵害という話になります。
結局、民法の範囲だけでいえば不法行為になりますが、問題は「主人公は裁判官」というところで、裁判官も公務員にあたるため、「業務の間で起きた行為」に対しては、「公務員個人を訴えること」はできません(国による「代位責任説」)。したがって、国家賠償法に基づき「国を訴える」ことになりますが、国に対して「自転車を勝手に乗り回された、賠償しろ」という国家賠償訴訟も想定外のような気がします(そんな訴訟までやってたら裁判所はパンクしてしまう)。
(参考/民事訴訟と和解について)
・ 基本的に弁護士の方を立てて裁判を行いますが、和解や訴えの取り下げ、放棄、控訴などは、それぞれについて、受任者(ここでは、原告や被告の当事者)との個別の委任が必要です(民事訴訟法55の2)。
(参考/民事裁判とその判決の効果)
・ 民事裁判における判決の効果は、当事者間でしか効果はありません(第三者効がない、といいます。民事訴訟法115条)。したがって、ある個人が企業に対して「そちらの企業の製品で損害が生じたから賠償しろ」といっても、「では何円賠償しなさい」というのはその個人に対して「のみ」にしか効果は及びません。他の住民も別に裁判を起こすなどが必要です。
したがって、この部分は明確にストーリー的にやや破綻している(描写不足)ところがあります(詳細はネタバレになるため省略)。
※ 一部例外あり。行政事件や会社法に関すること等で、「物事を画一的に決めないと全体が混乱する」ような場合は第三者にも及びます(会社法に触れる行為で、会社の不成立を争う訴訟は、その性質上、画一的に効果を決めないと社会が混乱します)。
(参考/海難審判について)
・ 映画内では省略されていますが、海難事故のように「専門色」が強い事件は、一般の裁判所よりも、それに詳しい(海難を扱うのは、国土交通省)行政が担当したほうが良い場合があります(ほか、電波審判や労働審判など)。このような裁判は「裁判」ではありませんが「裁判に準じたもの」なので(準司法作用)、それに不服がある場合には必ず裁判所に接続して争うことができますが(日本国憲法は、行政が終審で裁判を行うことを禁止しています)、このように「裁判に準じたほどの厳密さ」で争われた結果の「裁判所への接続先」は、一般には高裁になることが普通です(海難審判の場合、不服がある場合は30日以内に東京高等裁判所へ訴えることになります。岡山地裁でも広島高裁でもありません(海難審判法))。
(参考/ある事件について、その事件に適用できる法律にない場合、どうやって裁判をするのか)
・ 判例がある場合は判例(通常は最高裁判例ですが、それがない場合、高裁判例や地裁判例等を援用することもあります)、あるいは「一般的な普遍的条理」、または「合理的な類推解釈」などがあげられます。
※ 「類推解釈」って何?
・ Aという事件にはXという法が適用されていて、一方、Bという事件に対しては何も法が整備されていないものとします。しかし、AとBに「何らかの理論的共通性」があり、AとBで違う結論を出すことが不適切で場合は、「Aについて定めた条文Xを類推して、Bにも適用する」という解釈技術のことを「類推解釈」(実際に適用する場合、「類推適用」)といいます。
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行政書士の資格持ちで、一見して気が付いたのはこの程度です。
かなり理解の難しい映画なので、「パンフレットがわり」にでもどうぞ。
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