「パーフェクトじゃなくてもいい、自分らしく。大切な友達や心があって、本当の理想郷」映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
パーフェクトじゃなくてもいい、自分らしく。大切な友達や心があって、本当の理想郷
映画ドラえもん42作目。
今回の話題は、脚本に売れっ子の古沢良太。
数年前にもオファーを受けていたらしいが、偉大な原作者と作品のプレッシャーから辞退していたという。
しかし再びのオファー。かつて自分も藤子先生が創造したドラえもんの世界にワクワクし、その時の気持ちを今の子供たちに届けられたら…。
自身にとっても“物語を創造する”の原点でもあり、あの頃ワクワクした冒険へ今また旅立つ決心をしたという。
出木杉から古今東西に伝わる“理想郷(ユートピア)”の話を聞いたのび太。
そこでは争いもいじめも無く、皆が平等自由に暮らし、誰もが優等生になれる。ダメなのび太だって。
いいなぁ…。行ってみたいなぁ…。
そんな時、空の彼方に聞いた通りの三日月型の理想郷を目撃したのび太。何て都合のいい展開かと思いきや、この時見た三日月型の理想郷や落ちてきた“虫”、出発時の虹など実は『魔界大冒険』ばりの伏線。
理想郷は本当にある!
古今東西の理想郷の目撃談を手掛かりに、探し出す冒険へ…!
別の世界への憧れと冒険。
そこは何もかもがパーフェクトな理想郷。
今回はオリジナルだが、過去作品も彷彿させる。
とりわけ空×理想郷と言うと『雲の王国』。個人的にドラえもん映画でもお気に入りの一つ。
ただ決定的に違うのは、『雲の王国』はのび太たちが造ったのに対し、こちらはのび太たちが遭遇した驚きの世界。
理想郷は本当に存在した…!
辿り着いたそこは、“パラダピア”。
美しい空の国。争いも嫌な事も無く、皆幸せに暮らしている。
科学技術も発達。国の源は“パラダピアンライト”という光。“三賢人”と呼ばれる3人の天才が創造したこの世界。
ここでは誰だってパーフェクトになれる。乱暴者のジャイアンだって、イジワルなスネ夫だって、強情なしずかだって。ダメダメなのび太だってパーフェクト小学生になれる。
ドラえもんと同じ未来のネコ型ロボットだが、こちらはパーフェクトなネコ型ロボット、“ソーニャ”の案内でこの世界で暮らしてみる事に。
暮らし始めて数日、早速皆に変化が表れる。
徐々に穏やかで優しい性格に。パーフェクトになってきている…!
しかし、のび太は…。相変わらず何をやってもダメ。
理想の世界では何もかも上手くいく筈が、そう思い通りにはならない。ここら辺、『魔界大冒険』を彷彿。
理想的なパラダピアだが、悪者に狙われている。
強力なバリアで守られ、外部からの発見や侵入も不可能。それでもパトロールは怠らず、ドラえもんもソーニャと共にパトロールを。
そんなある夜、何者かが侵入。三賢人が狙われるも、ドラえもんとのび太の活躍で未然に防ぐ。
侵入者は未来の女賞金稼ぎ、マリンバ。依頼主は住人の女の子、ハンナ。
皆、三賢人に騙されている。パラダピアは理想郷なんかじゃないという…。
ソーニャの時折の不審な視線。
三賢人が密かに企む何か。
それらは元より、古今東西の映画などで描かれる“理想郷”に裏は付き物。
このパラダピアだって理想郷と言っときながら、ルールは多いし、徹底された管理社会。三賢人なんて崇められる存在がいる。
そんなのが本当に理想郷…? 案の定。
ハンナは元の世界から三賢人に連れられ、ここへ。マリンバはその救出。
三賢人の目的は、人を操れる光=パラダピアンライトを使って人を支配。人から心を奪い、言いなりにし、三賢人にとって理想的な世界を創る。
三賢人の正体は、未来の世界で人を操る光を発明していたマッド・サイエンティスト、レイ博士だった…!
正体が知られたレイ博士はのび太たちの時代と町にタイムワープし、パラダピアンライトで町を支配しようとする。
ジャイアンたちはすっかり洗脳。ソーニャも立ち塞がり、遂にのび太もパラダピアンライトによって心を奪われ、ドラえもんに変身ライトを向ける。虫になって町へ落ちていくドラえもん。(←ここ!)
やっとのび太は正気に戻るが、この絶体絶命のピンチに立ち向かえるのか…?
パラダピアや世界観はファンタスティックで楽しいが、その実態はなかなかにシビア。三賢人/レイ博士もドラえもん映画久々と言える悪党。
一部の存在=独裁者の言いなりに支配される世界が本当に理想郷なのか…? 不条理な事ばかりの世界でも、好きな事嫌いな事が自由に出来る世界こそ本当の理想郷。
乱暴者じゃないジャイアン、イジワルじゃないスネ夫、強情じゃないしずか。そんなのいつもの皆じゃない。乱暴者だけど勇敢なジャイアン、イジワルだけど仲間思いのスネ夫、強情だけど優しいしずか。そのままで居てこそいつもの皆。
勉強もスポーツも出来ない。パーフェクトとは程遠い。ダメダメ少年の代表、のび太。でも皆、ダメな所や欠点がある。素晴らしい所もある。のび太は人一倍の純粋さと勇気と友達を思う心。
自分らしく。それは個性。そんな色んな好き嫌い、心や人があって、世界は楽しい。
心があるのは何も人間だけじゃない。ロボットだって。
言うまでもなく固い友情で結ばれたのび太とドラえもん。お互いの好きな所もダメな所もいっぱい含めて。
三賢人に忠誠を誓うソーニャ。彼にだって心はある。あの時見せたいっぱいの笑顔。
さあ、自分の心を信じて。
最後、ある決心をするソーニャ。彼の本当の心が描かれ、また一人、のび太たちの大切な友達が増えた。
永瀬廉の声も好感。
巧みな脚本が評価される古沢良太。
本作でもワクワク冒険と不思議な世界、メッセージ、感動を織り交ぜ、しっかりと王道ドラえもん。
当初は別のアイデアがあったという。のび太たちの町を舞台に、普段とは違う道を通ったら、別の不思議な世界が広がっていて…。コロナ禍で冒険出来なかった子供たちの為に今回の案になったらしいが、当初の案も見てみたかったかも。
今後古沢氏がまた担当になった時、是非ともこの話を!
近年ではベスト。
コロナで公開が夏になったり一年延期になったりしたが、本作は従来通り。久々に40億円超えの大ヒット。
ドラえもんが戻るべき所に戻ると、やはり安心出来て心地よい。
次はどんな冒険を“奏でて”くれるかな…?