ロッキーVSドラゴ ROCKY IV : 特集
42分の未公開シーン、劇場公開のみ… ふむふむ。
“新ロッキー4”は本当に“観に行く”価値があるのか?
【ファンのために、生粋のファンが鑑賞→徹底検証!】
「ロッキーVSドラゴ ROCKY IV」が、8月19日から公開される。監督・製作・主演したシルベスター・スタローン自らが再編集し、36年の時を経てまったく新しい「ロッキー4」を作り上げている。
とはいえ今作に対し「いや、好きだけど、なんで今『ロッキー4』を劇場公開?」「映画館にまで行く価値あるんかいな?」と不安視する、疑い深~いファンもなかにはいるだろう。断言しよう。この記事を読めば、あなたは「映画館に行かなければならない」と思うはずだ。
というのも今作最大の特徴は、約42分の新映像が“追加ではなく”差し替えられている=ほとんど別の映画になっている点。さらに“VOD配信の予定なし(今のところ)”。つまり映画館でのみ鑑賞可能、この機会を逃すと未来永劫観られないかもしれない、ということである!
ほかにも、ファンは喜びのあまり千切れてしまうような要素のオンパレード! 本記事では「ロッキー」の大大大ファンである映画ライター・相馬学氏に、実際に今作を鑑賞してきてもらい、その魔力を隅々まで詳細に語ってもらった。
※以下、相馬学氏による寄稿。
【作品概要】
シルベスター・スタローンが魂を削って作り出し、世界的なヒットを記録、現在も愛され続けている「ロッキー」シリーズ。中でも1985年の「ロッキー4」は世界興収3億ドルで、日本での配給収入は30億円弱。これはいずれもシリーズのナンバーワン。そういう意味では「ロッキー」の根強い人気を象徴する作品である。
物語もとびっきりアツい。なにしろ主人公のボクサー、ロッキー・バルボアが新たに立ち向かった相手は、ソ連が誇る無敵の男イワン・ドラゴで、冷戦時代の米ソ代理戦争の様相をも呈しているのだから。同じヘビー級ではあるが、体格も身体能力も若さも、ロッキーを上回る。「ロッキーVSドラゴ」は、このドラマの深みを改めて追求した「ロッキー4」の再編集バージョン(スタローン自らが編集)。頂上決戦へと至る道のりには、知られざるドラマがあった!
【検証①】激レア!? 劇場公開のみ=配信なしとの噂…観に行くしかない!
「ロッキーVSドラゴ」は2021年11月11日、本国アメリカで一夜限りの特別上映として公開された。それに比べれば、日本のファンはラッキーだ。全国の映画館で一斉にロードショー公開されるのだから!
気に留めておきたいのは、今のところ本作はVOD配信の予定がないこと。つまり、待っていれば自宅の端末で気軽に見られるという保障は存在しないのだ。この機会を逃すと、永久に見られないかもしれない!? いずれにしても、「ロッキー4」がそうであったように、「ロッキーVSドラゴ」も映画館で見てこそ興奮や感動を最大限に味わえることに疑問の余地はない。
ドラマ面の苦渋の決断の深みも、死闘時の汗の粒や飛び散る血の細やかさのリアルも、スクリーンで接してこそ、深く心に刺さってくるのだ!
【検証②】ほぼ別の新作に生まれ変わっちゃった!? 42分間の新映像による全く別の感動が!
「ロッキー4」の尺は91分だったが、「ロッキーVSドラゴ」は94分。“なーんだ、3分増えただけかよ……”と思われるかもしれないが、構造はそんなに単純ではない。というのも「ロッキーVSドラゴ」には「ロッキー4」とは異なる、42分もの新たなシーンが加えられているのだ!
この大胆な改造により、ロッキーを軸とした、ドラゴ、アポロ、妻エイドリアンの、それぞれ関係性の物語が、より芳醇になった。「ロッキー4」でコミカルな味を出していた家庭用ロボットの描写は、お笑いの出番ではない!とばかりにバッサリとカット。
代わって加えられたシーンには、たとえばアポロとの食卓の席を離れたエイドリアンがロッキーに告げる、アポロとドラゴの試合への不安。「ロッキー4」ではアポロ戦勝利直後のドラゴのインタビューは冷酷さのみを感じさせたが、本作ではアスリートとしての自己主張的な発言もあり、ドラゴの人間性をしっかりと見せている。
これらがあると、ないとでは、ドラマの質感がまったく違ってくる。クライマックスとなるファイトの場面にしても、未公開カットがふんだんに盛り込まれている。これは「ロッキー4」のファンには新鮮な感覚だ!
【検証③】Q:ファンが喜ぶ要素はどれくらい…? A:めっちゃ入ってた!
初公開となるシーンは、言うまでもなく「ロッキー」シリーズのファンが喜ぶようなエッセンスばかり。ぜひ、その目で確かめて欲しいが、ここではひとつだけ、挙げておこう。
アポロの葬儀のシーンにおけるロッキーのスピーチは「ロッキー4」とは、まったく異なる。男泣きしながらアポロへの感謝を語るロッキーの姿に、グッとこない「ロッキー」ファンがいるはずがない!
【検証④】テーマソングは、ちゃんとアレかけてくれるんだよね…!?
「ロッキー4」は日本では「トップガン」と同年、1986年に公開されたが、この時期はロックな音楽が映画と密接に結びついていた。「ロッキー4」のサントラも、挿入歌の効果的な起用が相まって映画の公開とともに大ヒットを飛ばした。
そして同作で観客を興奮させたナンバーは、「ロッキーVSドラゴ」にもしっかり息づいている。アポロVSドラゴ戦の前の、ジェームズ・ブラウンによる「リビング・イン・アメリカ」のパフォーマンスは、「ロッキー4」とは異なるカットも使用されており、ファンは“おっ!?”と目を見張るに違いない。
ドラゴ戦を決意して車を飛ばすロッキーの回想に重なるロバート・テッパーの「ノー・イージー・ウェイ・アウト」、ロシア到着時にフィーチャーされるサバイバー「バーニング・ハート」、訓練のシーンを盛り立てるジョン・キャファティー「ハーツ・オン・ファイア」も健在だ。
もちろん、「ロッキー3」の主題歌として全米チャートでナンバーワンとなったサバイバーの「アイ・オブ・ザ・タイガー」もフィーチャーされるが、「ロッキー4」とは使用箇所が異なるので、ぜひチェックして欲しい。
【検証⑤】なぜ今「ロッキー4」なのか? コロナ禍が“災い転じて福となす”
「ロッキー4」の製作35周年にあたる2020年、世界はコロナ禍に覆われてしまった。同作で監督・脚本・主演を務めたシルベスター・スタローンもまた、ロックダウンによりステイホームを余儀なくされるが、転んでもただでは起きないのはアーティストのサガ。この期間があったからこそ、「ロッキー4」はスタローンの手により、劇的に生まれ変わったのだ。
「『ロッキー4』を作ったころの俺は今よりも薄っぺらだった。なぜ、このシーンを使わなかったんだ? 俺は何を考えていたんだ? 今なら、使うべきシーンは明白なのに」とスタローンは振り返る。
また、「ロッキーVSドラゴ」の製作時には知る由もなかったが、そこで描かれた米ソの対立の構図は図らずも、2022年のロシアをめぐる世界情勢とも重なってしまった。今回の映画では、試合後のロッキーのスピーチを聞いたソ連書記長の反応が「ロッキー4」とは異なり、かなりゾッとさせるものとなっている。
年輪を増して“薄っぺら”ではなくなったスタローンの預言か!? いずれにしても、ここには映画の魔法がある!
【まとめ】ファンならば 四の五の言わずに観に行こう 行けばわかるさ エイドリアン
世界を感動の渦に包んだ一作目の「ロッキー」から早46年。ロッキーが今やおじいちゃんであることは、2015年のスピンンオフ作品「クリード チャンプを継ぐ男」や、ドラゴも登場したその続編「クリード 炎の宿敵」でも描かれた。
しかし、すべてのおじいちゃんに知られざる過去があるように、ロッキーにもそれはある。「ロッキー4」で描かれたのは、脂が乗りまくっていて、誰もが注目していた現役時代、つまり最盛期のロッキーの姿。栄光の裏側の、これまで見えなかった心の動きに注視しアツく描き切ったのが「ロッキーVSドラゴ」だ。
ロッキーに人生を教わった、すべてのファンに、エモく生まれ変わった伝説の戦いを体感して欲しい。必見!(文/相馬学)