エゴイスト : 特集
【人生に訴える衝撃・感動・問題作】編集者の浩輔は、
トレーナーの龍太と恋に落ちる あなたはこの愛に何を
感じる――? 観て、揺さぶられるべき重大な渾身作
血のつながり、家族という枠組み、他者と共に生きるということ……。
2月10日に公開を迎える「エゴイスト」は、男性同士の切実なラブストーリーを通じ、多種多様の境界を提示する。衝撃作でもあり、問題作でもあり、同時に感動作でもある。あらゆる物事を乗り越えて、映画館で観てほしい“重大な一作”。
惹かれ合った2人が過ごす親密な時間に陶酔し、やがて訪れる運命に心を締め付けられ――人生に訴えかけられ、感情が全方位に大きく、大きく揺さぶられ続ける。徹底的な役作りで知られる鈴木亮平の“生き様”にはやはり息を呑むし、共演の宮沢氷魚、阿川佐和子の芝居も驚くほどの圧力を秘めている。
本記事では今作の魅力や、「なぜ価値があるのか」を徹底的に紹介。旧知の間柄ながら初タッグとなった松永大司監督&主演・鈴木亮平の秘話に加え、キーパーソンに扮した宮沢氷魚&阿川佐和子の“言葉”を通じて、真実をひも解いていく。
【ここがすごい】松永大司監督×鈴木亮平がこだわり
抜いたこと…亡き原作者の思いを継ぐ「リスペクト」
原作は、数々の名コラムを世に送り出し、2020年に他界した高山真さんの自伝的小説。編集者の浩輔(鈴木亮平)と、パーソナルトレーナー・龍太(宮沢氷魚)の恋物語は、やがて“母”という存在を交えながら家族の物語へと転じ、赦しと救いの境地へと辿り着く。
●[鈴木亮平]向き合った“人を演じること”…高山さんを探す旅へ
「演じる役の血を自分の体に通わせることを惜しみなくやる人間」
“俳優・鈴木亮平”を、松永監督はそう言わしめた。鈴木は徹底的な役作りで知られるが、その根源は入念なリサーチと、「(表現の対象に)リスペクトを欠かさない」ことにあり、今作でも姿勢は変わらなかった。
高山さん自身が反映された「浩輔」を演じるにあたり、高山さんの書籍やブログを読み漁り、近しい人々への取材を敢行。編集者の仕事についてリサーチを行い、ゲイカルチャーなどの情報収集も行った――つまり、亡き高山さんを探す旅に出ていたのだ。
エッセイなどの書物を通じて知る「高山真」。生前の姿を知る人々から伝え聞く「高山真」。そこで生まれたイメージの差異とも向き合いながら、「浩輔」の人格を作り上げていった。
原作文庫本には、鈴木があとがきを寄せている(これが実に美しい文章!)。企画との出合いから始まり、探求の旅を経て、セクシュアリティにまつわる願いへと結びつく。そこには高山さんに向けたメッセージが記されている。
「高山真様。あなたを探す旅を通して私は、すでにあなたを他人とは思えないほど敬愛している」
時に貪欲に、常に真摯に「人を演じること」に向き合い続ける。自由気ままな“強さ”と、戸惑いを隠しきれない“脆さ”を同居させた「浩輔像」は、一切妥協をしなかった鈴木だからこそ成し得た表現だ。必見。
●[松永大司監督]創出した規格外のリアリティ “偽りなき光景”と未来につなぐ“希望”
メガホンをとったのは松永大司監督。トランスジェンダーである友人を撮影したドキュメンタリー「ピュ~ぴる」(2011年公開)でデビューしており、「それ以降、まだまだ日本において性的マイノリティが置かれている状況への理解が深まらない中、次は同性愛者である主人公をしっかり描きたい」という思いを、今作で結実させた。
そんな松永監督のリアリティへの意識は、細部に行き届いている。高山さんが愛したもの(イデミスギノのケーキ、名曲「夜へと急ぐ人」等)を物語に取り入れつつ、LGBTQ+inclusive director(性的マイノリティに関するセリフや所作、キャスティングなどを監修)、intimacy choreographer(セックスシーンなどの「インティマシーシーン」における動きや所作を監修)、LGBTQ当事者らの意見を重視した。
つまりフィクションの物語をつくるのではなく、“偽りのない光景”へと近づいていったのだ。
これを切りとる手段として選択したドキュメンタリータッチの映像も印象的。大半のシーンは、臨場感と没入感が増すワンシーンワンカット。その場の空気、温度、微細な表情の変化がダイレクト&生々しく伝わり、“心”に訴えるシーンが生まれている……このリアリティは、もはや“事件的”だ。
【この人に注目①】鈴木亮平との“相性”が抜群…!
“愛を注がれる青年・龍太役”宮沢氷魚の存在感が極上
自分の美しさに無防備で健気な龍太――宮沢が配役された最大の理由は、鈴木とのバランスの良さ。この2人だからこそ、補いあい、高みへと到達することができる。そんな思いを託された宮沢は、本作への参加をどう思っていたのだろうか? 松永監督が聞き役を務めたインタビューで、その胸の内を明かしている。
●宮沢氷魚×鈴木亮平、“結びつき100%” 記憶に残るシーンは「1つの物体として融合」
宮沢は「最も幸せを感じた」というシーンとして「浩輔と龍太がスマホで動画を撮る」という光景を挙げている。
その理由は「浩輔さん、龍太の関係性もありますが、それ以上に亮平さんと僕の結びつきが、あそこで100%になったんです。僕の中に“亮平さんが入り込んでる”感じがして、もちろん2人は別々の人間ですが、1つの物体として融合しているような瞬間」というもの。劇中にはそう感じてしまうシーンが多数存在しているようだ。
「全部が良いシーンなんです。インタビューで『好きなシーンは?』と聞かれることがありますが、全部なんですよ。1秒たりとも不必要なところはない……そんな作品ってすごくないですか?」
●鈴木亮平が精神的支柱に その姿勢に「覚悟を感じました」
宮沢にとってはハードな日々が続いた。「自身の職業への理解」と「肉体作り」といった事前準備を徹底し、時には「やればやるほど正解がわからなくなる」と芝居に思い悩んだことも。その時に感じた“苦しさ”を「こんなに鮮明に覚えてるのはこの作品だけ」と話している。
そんな時、支えになっていたのが鈴木の存在だった。
「こんなにすごい俳優さんが日本にいるんだなと。作品との向き合い方が超一流。自分も不器用なので、亮平さんからは学ぶことしかなかったんです。あそこまで役に近づくためにはどうすればいいんだろうというヒントは、すべて亮平さんからいただきました。亮平さんほど、役に対するリスペクトがある人は初めてです。役を演じる以上は、すべての責任を自分で負う。その覚悟を感じました」
2人の化学反応を、ぜひ堪能してもらいたい。
【この人に注目②】めちゃくちゃハマリ役…!
話題になること確実、“浩輔の人生変える”阿川佐和子
龍太の母・妙子のキャスティングは、最後の最後まで難航したが、作家・エッセイストとして活躍する阿川の起用へと辿り着いた。これが驚きのハマリ役で、話題になることは確実と思えるほど、記憶に残る芝居を披露しているのだ。宮沢のパートに続き、松永監督によるインタビューによって引き出された“本音”に迫っていく。
●名演に次ぐ名演はどうやって実現した? “母親”として気にした「麦茶をいつ出そう?」
俳優としての経験が少ないだけに、「本当に役に立っているのだろうか」「監督の『OKです』は満足のOKなのか、それとも諦めのOKなのか」と不安を感じることもあったそうだが「非常に月並みな言い方をすると(本作への参加は)面白かった。映画の作り方、ひとつひとつが面白かったですし、監督はやりたいと思っていることを、役者それぞれに合わせる形でアドバイスしてくださった」と振り返る阿川。
「台本のセリフをきちんと言わないといけないという点もありましたが、それよりも“母親としてどういう気持ちでいるのか”という部分を監督は大事にしてくださった。『麦茶をいつ出そう』『このお客さんをどうやって接待しよう』。そういう気持ちに徹することができたんです。これは私にとっては挑戦であり、心地よくもあり、モノを作っていくということの面白さを体感させていただいたという気がしています」
●阿川佐和子が感じる今作の魅力は「優しさ」――観終わった後、「つらい」ではなく「よかった」が残る
阿川が感じていた、本作ならではの魅力。それは「優しさ」というもの。
テーマ、登場人物たちを取り巻く環境など、シビアなものを感じながらも「見終わった時には『つらい』という気持ちよりは『良かった』と思えるような気持ちの方が残る」と指摘。「あのシーンはすごく幸せだった、あの言葉は素敵だった。そういう点がいっぱい詰まっていて『良かったなぁ』と思える。それは優しさじゃないかな」という。
最後に、この発言に紐づける形でお伝えしておきたいことがある。
それは、今作の鑑賞後、人によってはタイトル「エゴイスト」の印象が変わるということ。新たに芽生えた意味合いは、胸の奥底へと深く突き刺さるはず。断言しておこう。これは滅多に味わうことができない“良質の映画体験”だ。一切の躊躇なく、劇場へと足を運んでほしい。
【鈴木亮平×宮沢氷魚×阿川佐和子 3ショットインタビュー映像】