「本当のエゴイストは母でしょう」エゴイスト 静香さんの映画レビュー(感想・評価)
本当のエゴイストは母でしょう
まず、この映画を観て「時代が変わったなぁ」というのが、一番の感想です。
こういう題材の作品が、一流の俳優さんや映画製作者によって、本当に丁寧に作られ、それが一般公開されて、様々な人達が特別な思いで観に来る。異性愛以外の形を、もっと知りたいと真摯な気持ちで、足を運ぶ人が普通に増えたからこその、この映画の誕生と感じました。
全編が自然で、それは大切に繊細に描かれていましたが、性描写の部分は特に印象的でした。
異性愛者が愛し合い、高みに達する姿と、同性愛者のそれに、一体何の違いがあるのかと、静かに、そしてパワフルに問いかけられた思いです。
それにしても、タイトルのエゴイストとは、一体誰を指してのことなのか、と考えていましたが「あ。この人ね」と、最後のショッキングな終わり方で見えた思いです。
自分も子(息子)を持つ母なので、そんな自分とも重ねて見てしまいましたが、そもそも自分の体調のせいで子供に進学を断念させ、お金を工面させてきたあの親は、一体どんな顔をずっとしてきたのかと思いました。
高校を中退させた我が子に、自分の経済負担まで背負わせ、それだけの金銭がどこから発生しているのか、知らん顔を決め込める母親だからこそ、最後は浩輔のことを「息子です」と、病室の人に話して、帰ろうとしている彼に、「帰らないで」と拘束するなんてことが、できたんでしょうね。
息子のみならず、他人の浩輔まで縛りつけてるシーンの只中で、突如画面が切り替わり、エゴイストの文字が浮かび上がって、終了。
私にとっては「この人ですよー、表題の人は」と言われたようにしか、思われませんでした。
龍太を死なせたのは自分だと、泣いて謝る浩輔に、もしもこの母親が自分の責任と罪を認めていたのなら「この子を長年酷使した私が、息子を死に追いやった。謝るのはあなたじゃない」と、悶絶するほど泣いて詫びて後悔をする筈だと感じました。
龍太を死に追いやったのは、浩輔ではなく、負担を息子にかけ続けた母親ですね。
とはいえ、阿川佐和子さんの演技と存在感は、とても素敵でした。
今まで観てきた邦画の中で、多分この映画が一番好きです。