「金田一京助氏の姿勢は素晴らしいけれども、過激?」カムイのうた てつさんの映画レビュー(感想・評価)
金田一京助氏の姿勢は素晴らしいけれども、過激?
少し前に『大地よ』を観たせいか、冒頭の雄大な雪山の遠景から、ドキュメンタリーかと錯覚したが、物語が始まると、主人公が和人とともに通う学校のなかで受けた差別やいじめから、自分の育ってきた民族性に肩身の狭い思いを感じることになる。ムックリは、私が20代の頃、北海道に初めて旅行に行ったときにその響きに感動して土産に買い求めて全く弾くことができないでいた思い入れのある楽器だが、本作中では無残に壊されてしまっていた。『ゴールデンカムイ』が描いていない関係性がよく理解できる展開である。当事者俳優をできるだけ起用してほしかった。
対照的に、アイヌ文化の素晴らしさを説く大学教授が「兼田」を名乗って出てくる。学校の国語の教科書の解説で、金田一京助氏の名と、サハリンまで渡ってユーカラの調査を行ったことは知っていたけれども、その聴き取りの様子や、アイヌの人々との関係性はわかっていなかった。映画に描かれていたような解剖学の教授のように、研究のために対象者の民族性や人権の尊厳を顧みなかったという姿勢は、近年まで世界中に存続していたので、当時の金田一氏がそのような研究姿勢に抗議していたとしたら、驚くべきことである。その一方で、朝ドラ『らんまん』に描かれるような明治期の帝国大学の教授陣の態度や、現在でさえ、大学教員のプライドの高さを考えると、実力行使をした兼田には、法律上の刑罰や損害賠償、学内における懲戒処分が向けられるものではないかと心配し、少し過激な描写だと感じた。