「南の島から」Dr.コトー診療所 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
南の島から
2シーズンやSPなどフジテレビで放送され人気を博してきた同名コミックを基にしたTVドラマ。
その16年ぶりの続編で初の劇場版。足掛け20年に渡って続いてきた本シリーズの完結編でもある。
いつもながらのTVドラマシリーズ未見。
でも、概要は知っていた。
沖縄の小さな離島。そこに赴任してきた青年医師。通称“コトー”。
無医村であったこの島で、彼と島民と患者たちが織り成す人間模様。
“満男”が医者になって沖縄の離島へ…なんてパロっていたが、吉岡秀隆のキャスティングが大成功。
開幕。沖縄の青い海と空。島の美しい風景。ここだけで魅せられた。
その下で、朝から晩まで島の人々を診るコトー。穏やかな人柄と笑顔で、一人一人に寄り添って。
つくづく、この人には人情劇が似合う。
今やこの島にいなくてはならない、島民たちの“家族”となったコトー。
Wikipediaでちと調べてみたが、この絆を築くまでには色々あったようだ。
そんな彼らの“今”が描かれる…。
TVドラマの劇場版となるとその人間関係や設定にちんぷんかんぷんだが、初見でもすんなり輪に入っていけた。
今日も島の人々を診て回るコトー。馴染みの漁師の怪我を治療。
頼り、頼られ、絶対的な信頼と絆と交流。
そんなコトーは看護士の彩佳と結婚。もうすぐ子供も産まれる。
昔から見てた人には感慨深いだろう。
島に新顔が。東京から研修にやって来た若い医師・判斗。行きの船の中で診療所の若い看護士・那美と知り合う。共にシリーズ初登場で、初見の入り口を作ってくれる。
ゆったりと時が流れ、変わらぬ島と診療所とコトーたち。
だが、変化の波は静かに忍び寄っていた…。
島も過疎高齢化が進み、財政難により近隣諸島との統合話が持ち上がる。
そうなれば、コトーは島を出て拠点病院へ行かなければならない。
20年、たった一人で島の人々の命を守ってきた。再びこの島を無医村にする訳には…。
島にまた一人、訪問者が。いや、帰島者。
島の生まれで、かつてコトーに命を救われ、今東京で医師を目指している剛洋。
帰りを島全員で歓迎。だが、帰ってきた理由は別にあった。ニュースで報じられている東京のクリニックで起きた事件…。
演じた富岡涼は芸能界を引退していたが、本作の為だけに復帰。何より嬉しい再会だろう。
島の人たちから頼られ、また島の人たちの為に尽くし、ほぼ働き詰めのコトー。
そんな彼の身体に異変が…。めまいや立ち眩み、身体に痣のようなものが…。
判斗に頼んで検査をする。他の人々には内緒で…。
東京で大学を辞め、事務として働いていたクリニックで医療ミス。それに関わり、重要参考人として東京から刑事が島にやって来て…。
医師を諦めようとしていた剛洋。
東京の知人の病院に検体を送った結果、急性骨髄性白血病である事が発覚したコトー。島を離れ、設備のある病院で治療に専念しなければ命に関わる…。
統合と病気のWパンチで離島を真剣に考えなくてはならない事態に。
でも、島を離れる事は…。
治療しなければ彩佳と産まれてくる子供とのこれからは…。
コトーや周囲の人々の究極の決断迫る。
そんな時島に、台風が近付く…。
TVシリーズから続投の豪華キャストによるアンサンブルは魅力。
小林薫、時任三郎、筧利夫、大塚寧々、大森南朋ら中堅~ベテランの安定感。泉谷しげるはいつもながらのステレオタイプの役柄だが。
高橋海人、生田絵梨花ら新顔の若いキャストも好演。
蒼井優や『VIVANT』が話題の堺雅人や『ゴジラ -1.0』への出演が発表された神木隆之介も出てたんだ~。
柴咲コウの看護士としてのサポートや良妻ぶり。
そして言うまでもなく吉岡秀隆の存在あってこそ。『男はつらいよ』『北の国から』『ALWAYS』など代表作多いが、なるほど本作も当たり役で長年人気なのも頷ける。
ドラマは見ずとも主題歌は知っている。中島みゆきの名曲が高らかに謳い上げる。
台風で島に甚大な被害が。
診療所に次々と負傷者が運び込まれてくる。中には重傷者も。まるで野戦病院。
対応に追われるコトー、彩佳、判斗、那美。
そんな時、彩佳を陣痛が…。
遂に、病魔と疲労でコトーが倒れてしまう…。
手術が必要な者や心肺停止の重体者。全員助けるなんて無理。判斗は本音を口に出してしまう。
コトーが病気である事を初めて知った島民たち。判斗はさらに言う。皆、コトー先生に頼りすぎ。その結果が、今。
島最大の危機。何か奇跡でも起きないとこの状況は…。
島民の命。
コトー自身の命…。
本作もしくはシリーズでも最大と言っていい局面。
非常に盛り上がり所だが、ちょっと難点もあった。
次々から次々へと続くトラブル。ハラハラドキドキのシリアス展開ではあるが、ちょっとくどすぎ。
那美の祖母で、藤田弓子演じる助産師。台風が迫ってるのに避難所に居たくないと自宅に戻り、挙げ句被害に遭い、逼迫の診療所をさらに逼迫させる。彼女を救おうと感動展開になるが、そもそも自分が悪いんじゃ…?
コトーが倒れた時、誰も助けない。呆然驚愕とは言え、コトーに助けられた人もいるのに…?
諦めかけたその時、ある人物が口火を切る。諦めない!
皆に活気が戻り、コトーも意識を取り戻し、病魔と疲労と闘いながら手術を決行し、この修羅場を持ち応える。言葉通り、全員の命を救った。
これも確かに感動的ではあるが、結局は精神論…?
何か、根本的な解決には至ってないような…?
それはラストの“その後”も。
再び島に平穏な日々が。
が、過疎高齢化問題や統合の話は結局どうなったの…?
あの台風で、島にはやはり医師が必要って事で丸く収まったのかな…?
何にせよ、そこら辺の描写が無いのは不完全燃焼。
でも一番の気掛かりは、コトーかもしれない。
手術中、吐血。それでもやりきり、難を乗り越えた。
術後、彩佳のいる部屋へ。その傍らに座るコトー。握っていた手の力が抜け、まるで力尽きたかのように…。
ひょっとして、コトーは…。
だがラストシーン。診療所で患者を診るいつものコトー。病気は治ったのか…? 何だか唐突過ぎる。
そんな彼によちよちと歩み寄る産まれてきた我が子。抱き上げる。
ハッピーエンドだが、これはハッピーエンドなのか…?
そもそもこれは、現実なのか…?
力尽きた時、コトーが死の直前に見た夢なのではないか…?
あまりにも不自然過ぎて、そう思う方がしっくり来る。
これが現実のハッピーエンドなら、誰もが見たかった今とその後と最後。
これが現実じゃなかったら、こんな完結編を見たかったのだろうか…?
悪くはなかったが…、治療は滞りなく経過したのにちと後遺症が残ったような…。