「コトーをみて医者になった世代です」Dr.コトー診療所 MACさんの映画レビュー(感想・評価)
コトーをみて医者になった世代です
初めに、私はDr.コトー診療所のドラマ作品が大好きです。小学生の時にこのドラマをみて医者を志し、医学部にいる時も何度も見返しては、初心を思い出していました。そんな大好きな作品だったので、内科医として6年目のこの時期に、まさかの映画化ということで、とても楽しみに公開を待っていました。
まず素晴らしいなと思ったのは、相変わらずの映像の美しさや演出。ドラマの時から離島でロケしているからこそ作り出せる美しい風景が大好きでしたが、約20年の時を経て、更に映像技術も進歩し、大きな映画のスクリーンでそんな風景美を堪能できたのはそれだけでもいい映画体験でした。また、電動自転車のバッテリーを忘れたシーンの、あえてピントを当てない演出等、くすりとさせられる演出も好きでした。
また豪華なキャスト陣にはわくわくさせられました。監督、スタッフの尽力あってか、あの頃のキャストがここまで集結したのは本当にすごいことだと思います。特に自分と年の近い剛洋役の富岡涼さんの出演はファンとしては非常に嬉しかったです。
このように素晴らしかった点もたくさんあったのですが、引っかかってしまったのは脚本でした。
まあ医学的にツッコミどころが…という議論はどの医療ドラマにも出てきますし、もちろんドラマ時代からツッコミどころは所々あったので、あまり取り上げても仕方ないのかとは思いますが、最後のクライマックス部分はかなり強引な感じが否めませんでした。
膵癌末期ののぶおじに、心マと挿管をやり、ROSC(心拍再開)したことで、一同は拍手喝采。ROSC後ののぶおじはもう問題になっていないかのように、お次はミドリさんにバイパス手術を始めるコトー先生… 確かに脚本的に、あやかの赤ちゃんを取り上げてもらうために助産師さんを助けるというきれいな着地にはなっているのですが、そこに繋げるために強引に話を丸く収めている感じが少し気になってしまいました。こういう現場がカオスな時こそ、ハント先生が言っていたようにトリアージが大事。まあコトー先生の体調的にもうそれどころでは無くなっていたのは分かるのですが…
あとこれは自分が医者だから引っかかってしまう部分なのかもしれないですが、『医者が患者を助けるため、命までも投げ売って一生を捧げた事実が素晴らしい』という描かれ方に少し違和感を感じました。もちろん、あの献身的なコトー先生だからああいう最期が相応しい、というのも分からなくはないですが、なんかボロボロになって結局赤ちゃんの顔も見られずに亡くなってしまったコトー先生を見て、果たして幸せだったのだろうかと思ってしまいました。医者にだって休む権利はあるし、医者だからこそ、命に関わる仕事をしているからこそ体調管理をしっかりすべきではないかと思ってしまうのです(それが難しいことも多いですが。)
いろいろと書いてしまいましたが、一方で、患者に向き合う献身的な姿勢はやっぱりハッとさせられるものがありました。20年前に初めてDr.コトーをみたときの初心を思い出させてくれました。普段もできる限り患者さんと向き合っているつもりではあったけど、まだまだ足りない!もっと頑張れ!と背中を押された気もしました。
Dr.コトー診療所という作品が大好きで長年のファンだからこそ、期待値が高かったからこそ少し残念に思ってしまう部分もありましたが、それでもやっぱり映画館で見られて良かったと思っています。コトー先生を胸に刻み、明日からまた頑張って患者さんと向き合っていこうと思いました。
MACさん、はじめまして。
私もちょうどこのドラマがテレビで放映されている頃、息子が医学部に入り、ドラマの中のヒューマン的な部分と医学的な一面に非常に興味を持って見ていました。ですのであれから20年の歳月を経ての映画化を本当に嬉しく思って待ち望んで映画館に行きました。
感想はほとんどMACさんと同じです。最初の自転車に乗ったコトー先生から大きく引いた島と海の雄大な映像美、そしてあのテーマ曲に一瞬で涙が出て、あーー見にきてよかった〜と思いました。
ただ、話が進むうちに剛洋くんの現状、コトー先生の病気、最後は土砂崩れの怪我人など、話が多すぎて、脚本が散らかってる(変な言い方ですが)感じが否めませんでした。
そしてMACさんがおっしゃってる『医者が患者を助けるため、命までも投げ売って一生を捧げた事実が素晴らしい』という描かれ方』、私もここには大きな違和感を感じたんです、最初は。
ただドクターコトーの作品を通じて、コトー先生はいつもいつもたった一人で島民の命を支え続けるという過酷な現実に向かい合ってきました。それがいかに過酷であるか、和田さんもドラマの中で言及してますし、その象徴とも言うべき石碑の存在は、離島医療の厳しさを常に訴え続けていました。あの石碑に刻まれていた言葉『蜃気楼』が、実際は戦後島に残った医師が病にかかって目の病気になっていたのではないか、というようなセリフ(うろ覚えですが)があったように記憶しています。
その石碑が今回の映画にも出てきました。あれは医者の死が尊いというより、たった一人の医療は医者が死んでしまうほど残酷なんだということを伝えたかったのかなと、、、
ただ石碑の医師と違って、コトー先生はまた医師を目指しはじめたであろう剛洋くん、ハント先生、そして彩佳さんとの子供をこの世に遺しました。それは未来に大きくつながる希望ですよね。
私も医者の母親ですから、こんな犠牲はたまったもんじゃないです(苦笑)
MACさんがおっしゃるように命に関わる仕事をしてるからこそ、自分の体調管理もしっかりして、そういう環境を周りの人々も医師に与えるべきです。
6年目とのこと、お体に気をつけて、でも心は患者さんに寄り添って良いお医者さんになってください。私も息子に「電カル」だけ見ないで、ちゃんと患者さんの顔を見て治療しなさい、といつも言っています(笑)