劇場公開日 2022年12月16日

「医療ドラマではなく人間ドラマ」Dr.コトー診療所 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0医療ドラマではなく人間ドラマ

2022年12月18日
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鑑賞方法:映画館

幸せ

本作は、人気テレビドラマ「Dr.コトー診療所」の16年ぶりの続編となる劇場版。とはいえ、原作未読、テレビドラマ未視聴なので予備知識はなく、予告で涙腺を刺激され、どんな感動の物語を観せてくれるのかと期待して鑑賞してきました。公開2日目のレイトショーでしたが、かなりの客入りで改めて本作の人気ぶりがうかがえました。

ストーリーは、19年前に孤島・志木那島の診療所にやって来た医師コトーこと五島健助が、島でたった一人の医師として島民の命を守り、長い年月をかけて信頼関係を築き、看護師の彩佳と結婚してもうすぐ子供も誕生するという頃、自身も病に蝕まれていることに気づくが、診療所を頼りにする島民のために決して諦めず、命をかけて奮闘する姿を描くというもの。

主軸は、あくまでコトー先生を中心とした島民との交流やそこから生まれる人間ドラマです。もちろんそれはそれで素敵なのですが、医療系の感動展開を期待していただけに、その点はちょっと肩透かしでした。泣く気満々で劇場に足を運んだのですが、うるっと来たのは台風の場面前後で少しあっただけで、あとはわりとフラットな気持ちで観ていました。往年のファンには懐かしい面々との再会やその変化を楽しめる展開だったのでしょうが、初見の自分はそこまで引き込まれることはなかったです。

思い出補正ゼロの視点からみると平凡な作品に映りますが、それでも共感や感動を覚えるシーンはいくつかありました。中でも、一見冷たく感じる判斗の言動が核心をついていてよかったです。一人の医師の使命感と尊い犠牲の上にギリギリ成り立っている、過疎高齢化が進む離島の追い詰められた医療の現実をまざまざと見せつけられた気がします。ただ、その問題提起はすごくよかったのに、結局コトー先生を頼るだけで、彼をとことん追い込む展開は、感動どころか憤りを感じるレベルでした。彼の後ろ姿が判斗や剛洋たちに大きな影響を与えたことはわかりますが、それでめでたしめでたしとはならない気がします。

感動系医療ドラマを期待していた自分が悪いのですが、観たかったのは「命を救う奮闘」であって、「命を削る奮闘」ではありません。ラストは、少しだけ希望の見える締めくくりでしたが、コトー先生の病気はいったいどうなったのか、判斗はどういう決断をしたのか、結局この島の医療は何も変わらないのか等、モヤモヤしたものも残りました。

主演は吉岡秀隆さんで、彼自身の人柄が滲み出るようなコトー役は秀逸でした。脇を固める、柴咲コウさん、時任三郎さん、大塚寧々さん、大森南朋さん、泉谷しげるさんらは、持ち味を遺憾なく発揮した演技で作品を盛り立てています。若手では、高橋海斗くん、生田絵梨花さん、前田公輝くんらが好演。中でも、高橋海斗くんはちょっと見直しました。

おじゃる