「不要の必要性」グッドバイ、バッドマガジンズ 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
不要の必要性
ー2019年、東京オリンピックの開催に伴い、大手コンビニチェーン3社は成人向け雑誌の販売をやめた。
女性誌の編集を夢見てとある出版社に入社した詩織は、希望とは真逆の成人誌の部署へと配属される。
不本意ながら一生懸命頑張る彼女だったが、次第に時代の流れという残酷な現状が突きつけられる。
映画はジューン・ラブ・ジョイのYouTube風リポート動画から始まる。
ポップでキラキラ明るいその動画は、世界に誇るべき日本のエロ文化を世界に紹介するかのような作り。
しかし、この冒頭の明るさこそがこの物語の進むダークな一面を際立たせている。
この映画でも取り上げられる、コンビニの成人誌の販売終了のニュース、当時かなり衝撃を受けたことを覚えている。
母親は「あんなの無い方がいいわよ」みたいなことを言っていた。
でもその言葉が子供ながらに引っかかった。
確かにエロ本なんてものは特に日常生活に必要ない。
というか、やはり無い方がいいものかもしれない。
ましてや子供や多くの人の目に触れるコンビニには明らかに相応しくないものだ。
でも、無くて良いものを本当に無くしてしまって良いのだろうか。
これは当時の自分が思春期真っ只中だったからではない。
悪いもの(あえてここではそう呼ぶ)はある程度存在すべきである、不必要こそ必要なのではないだろうか。
多分私がコンビニエロ本を知っているギリギリの世代だろう。
今はなき成人誌のあのコーナー。
ちょっと気になるけど見てはいけないその聖域。
トイレのついでに視線を何気なくそちらにやりながら通り過ぎたものだ。
そこにあるべきものがないと何か寂しい。
無くて良いもののはずなのに。
そんなエロ本がコンビニから消えたあの事件のその裏で何が起きていたのか、それがこの映画。
改名した杏花が新人編集者を好演。
クセの強いヤツらの裏のお仕事ムービーなのだと、最初いや途中まではそう思っていた。
物語は前述の通り、冒頭からは想像できない方向へと進んでいく。
売れない。仲間が残らない。報われない。認められない。成功がない。
決してフィクションのお仕事映画ではない。
これは正真正銘の社畜映画。
実話を元に作っているのだから尚更残酷。
最後の展開は少しやり過ぎに感じたけれど、ある意味ホラー映画。ちょっとレビュー書くのもしんどい。結構食らった。
少しもったいない部分も目立っていた。
せっかくセンセーショナルな話題で勝負しているのだから、テーマを一つに絞ってほしかった。
メインテーマは一体、エロ文化の美化なのか?業界の厳しさなのか?それとも社会の闇なのか?セックスの本質なのか?
色々やりたい言いたいこと詰め込み過ぎて言いたいことが矛盾したりブレブレだったりで定まらなかったのが非常に残念。
また、特に叫ぶシーンなどで役者さんが何を言っているか分からなかった。
誰か1人というわけで無くて全体的に聴き取りづらく、重要なセリフも聴こえづらい時があった。
エロ本は一度社会勉強のために買ったことがある。
AVやインターネットが発達した現在、若者にとってはさらに必要のないコンテンツなのかもしれない。
しかし、日本が誇るべきこのエロ文化を廃れさせてはいけない。
文章や構成を必死に考えて、身を削りながら必要とされるかも分からないものを作っている人がいる。
ちょっとエロ本を買ってあげたくなった。
〈追記〉
前から架乃ゆらが誰かに似ていると思っていたけれど杏花が結構似ている。
役柄的に少し被ることを見越してなのか。
2人でのシーンは所々姉妹のようだった。