「綾瀬はるか主演の戦国ラブストーリー」レジェンド&バタフライ ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
綾瀬はるか主演の戦国ラブストーリー
大河ドラマ「どうする家康」の脚本家、キムタク&綾瀬はるかという布陣とこのタイトル、なので硬派な時代劇は最初から期待していなかったが、終盤は想像以上だった。
(ちょっと厳しめになります、すみません)
主役はどう見ても綾瀬はるか。序盤は彼女のアクションで作品世界に入っていくことができた。うつけ者信長と勝気な濃姫との出会い、そこから夫婦なのに立場的事情もあってどこかツンデレな関係が続き、でもお互い愛し合ってたよ、という鉄板の流れ。
その傍らで、史実に沿った信長の人生もサイドストーリーのように描かれる。あくまで脇の話なので、信長がうつけから魔王になった心理の変遷などは、あまり丁寧な描写はない。
冒頭の信長があまりにただのうつけなので、綾瀬はるかのアクションや毅然とした美しさに見とれていたら、粛々と年が過ぎていつの間にか信長が魔王化していた、という感じだった。
個人的に、木村拓哉という俳優は嫌いではない。何をやってもキムタクと言われ、確かにそうだなとも思うが、個性と演技の癖が役柄にフィットした時の存在感は魅力的だ。「武士の一分」やドラマ「華麗なる一族」「教場」は好きな作品。
本作では、序盤の16歳の信長としての姿が見た目も挙動もさすがに無理があったのと(時代劇あるある)、人間信長の描写が恋愛面に偏っていて(作品のテーマ上仕方ないが)掘り下げが足りなかったこともあり、キムタクの個性と信長というキャラの化学反応的なものは感じられなかった。
それと、市場でスリに遭ってからの貧民窟での刃傷沙汰は驚いた。近年のポリコレに洗脳された頭で見ていたので、盗みをせざるを得ない貧民の暮らしに触れて為政者としての自覚が……みたいに、信長の小さな成長エピソードになるのかとつい思ってしまった。蓋を開けると、単にラブシーンを盛り上げるための前振り、吊り橋効果の吊り橋的な扱いだった。
市井の人間(相手は刀さえ持っていなかったのでは?)を殺める行為の扱いが随分軽く、それは当時の感覚に照らせばむしろリアルなのかも知れないが、そもそも濃姫の言動など妙に現代臭くフィクショナルな色合いの強い本作の中で、この場面だけが唐突で浮いて見えた。
そして本能寺の終盤。床下に潜ったところで、あ、「そっち」の方向に行くの?まさかと思うけどそうなの?!とざわざわしはじめ、そこからのシーンがまあまあ長くて、一気にファンタジー方向へ突き進む物語の後頭部をただ呆然と見つめるばかりだった。
そこまで行く話なら、こちらも頭を切り替えないと……と思っていたら、ラストは「半地下の家族」(空想)落ちの「鎌倉殿の13人」締め。制作時期から考えて、大河の真似をしたわけではないだろう。だが、主人公の死と同時に暗転して音だけが残る終わり方は、もっとよい出来のものを先に三谷幸喜に見せられてしまったので、後塵を拝した感が否めない。残念ながらタイミングが悪かった。
それに、あそこまで突き抜けたんだから、本能寺に戻らずそのまま生存説で貫き通した方が潔くて好感を持てた気がする。
とはいえさすがにロケは贅沢、佐藤直紀の劇伴は映画館で観てよかったと思わせる壮大さ。スクリーンに映える綾瀬はるかの見事な身のこなしと美しさは、東映70周年の大作にふさわしい見応えがあった。
この作品のバランスの悪さや食い合わせの悪い部分をすべて具体的に活写いただいた、私にとってはガッテンしまくりの的確過ぎるレビュー‼️
ありがとうございます。
あの貧民窟(今ならホームレス⁈)の無駄な殺傷も本当に無駄なままでした。
おっしゃるとおり、シモジモとは縁のない信長の何かの覚醒⁈と思わせてからの肩透かし振りは、ある意味で天晴れ❗️
東映70年記念作品?そんなの関係ねー、という監督、脚本家の矜持からくる遊び心だったのかもしれませんね🤗