「二人の恋愛を描く、という新しい視点」レジェンド&バタフライ asukari-yさんの映画レビュー(感想・評価)
二人の恋愛を描く、という新しい視点
2020年代、織田信長を演じれそうな役者は誰だろう?
映画・テレビ問わず歴史の人物を描く作品を観る時、自分はよく思ってしまう。その役者が演技するときに発する圧力や貫禄、佇まい・・・。今に伝わる歴史上の人物とマッチするのかと。自分の中で好例を挙げるなら、TVドラマ「麒麟が来る(2020)」で斎藤道三を演じた本木雅弘、「関ケ原(2017)」で豊臣秀吉を演じた滝藤賢一、「リンカーン(2012)」でリンカーンを演じたダニエル=デイ・ルイス。皆見事なまでのインパクトを発し、いつまでも観ていたいと思えた。では、織田信長を演じてそう思えるような役者はいるだろうか?
木村拓哉。自分がこの映画を観たいと思った理由はこれだ。彼のイメージからして、織田信長を見事に演じれるのではないか。ナイスチョイスや。この興味から、本作を鑑賞した。
本作は織田信長とその正室:濃姫の政略結婚から信長の自刃に至るまでの30年間の“夫婦仲”に焦点を当てている。つまり、歴史映画ではあるものの“恋愛”の要素が強い作品だなと自分は感じた。また歴史上資料が乏しい濃姫の性格。これが非常に勝ち気で強い。序盤では信長を武の方で補佐するところもありと、いままでの作品とは違った濃姫を本作では魅せてきた。本作の信長がちと弱く見えてしまうところが気になるも、こうゆう展開も一味変わって悪くない。むしろ主演は濃姫のほうではないかと思えるくらい濃厚な描かれ方。これも恋愛要素を多く感じる理由のひとつでもある。ちょっとくどく感じることもあるが。
さて、本作の木村拓哉であるが、
まずはお見事の一言。
ちと重みの部分でもう少し欲しい、が本音だが、若かりし頃の信長の演技は若さほとばしる動きや眼光の鋭さに、「やっぱりええなぁ」と思えてしまう。だからといって壮年期の良さがないわけではない。他の役者が織田信長をやってここまで(もちろん自分の中でだが)納得できる演技が見れるだろうか。此度のチョイスは間違いないと思う。
だが、演技だけなら木村拓哉だけではない。濃姫を演じた綾瀬はるかや、脇を固めた伊藤英明、市川染五郎、中谷美紀。それだけではない、他のキャストも見ごたえのある役柄で、ここまで演技のアンサンブルが素晴らしいのもなかなかないなぁと思いながら見ていた。特に短いながらも徳川家康を演じた斎藤工のセリフ「見事じゃ」は貫禄たっぷり。ここで語るには足りぬくらい、素晴らしい演技が見れた。
ここまでなら、どちらかと言えば高評価な内容。しかし私がつけた評価は低め・・・。その理由が、
ストーリー展開。特にラストシーンがほんともったいない・・・。
この映画は今までの歴史映画やドラマで描かれてきて植え付けられた歴史的なイメージから一線を画すと思える内容。つまり新たな視点を持っている。そこに戸惑いはあれど、こうゆう解釈もありかと思えば受け入れられる。それだけに最初、“実は信長は本能寺の変で生き延び、濃姫と新たな人生を歩むため異国の地に渡る”シーンを魅せてきた。なるほど、たしかに信長の死体は出ていないし、可能性はかなり低いがその展開は面白い。ここまで新たな視点を魅せてきた映画ならむしろ納得。異論を臆せず描いたことに拍手。
・・・とおもいきや、まさかの夢落ち・・・。
歴史を描くなら歴史どおりに、が望ましい。その意見があれば完全に同意する。しかしゼロではない可能性を描くことを批判することはしない。だったらその方に進んで描いてほしかった。もし夢落ちでも夢とわかりやすいようにしてくれればまだ満足せずとも納得はした。しかし夢落ち、これは個人的に中途半端な描き方、蛇足に思う。またくどく感じるシーンは、ありきたりに思えてしまって他の視点で描けなかったのかと思ってしまう。これだけ新しい視点を持って描いているのに。なんか拍子抜けしてしまった。こんなオチは自分の中では求めていなかったなぁ。
それゆえ、本作は個人的に大きく点数を下げてしまっている。でも主役の二人を含め役者たちの演技は見ごたえ十分。それが救いである。