「大変面白く観ました!」劇場版モノノ怪 唐傘 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
大変面白く観ました!
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと大変面白く観ました!
この映画『劇場版モノノ怪 唐傘』は、劇中で事細かな説明はないので私的な解釈でしかないですが、物語の構造は意外にシンプルだったと思われます。
それは、大奥に入る女性たちは、その時にそれまで持っていた<大切な物>を大奥内の大きな井戸に投げ捨てるのですが、その代償に精神的な病に侵され、命を絶ったり、祟られたりする、という物語構造だったと思われます。
大奥に勤めることになったアサ(声:黒沢ともよさん)は、大奥で御祐筆の役割を担っていた北川(声:花澤香菜さん)と出会います。
ところで北川はアサと出会った時に既に自死して亡くなっており、北川がかつて大切にしていた人形の化身としてアサの前に現れます。
北川は、大奥に勤める前に大切な自身の人形を井戸に投げ捨てています。
それから北川は大切にしていた友人とも関係を切って、自身は精神的におかしくなります。
そして、北川はその後に自死することになるのです。
その結果、本来は天子様のお子が出来る前に執り行われる大餅曳(おおもちひき)の儀式が、題字を書くはずだった御祐筆の北川の自死によって延期になります。
そのように自死した北川が、北川が捨てた自身の人形の化身となって、北川の後を継ぐ形で御祐筆になるアサの前に現れます。
そして北川は、アサに対して大切な物を捨てて「乾いてはいけない」と説きます。
北川はモノノ怪「唐傘」となって、自分に大切な物を捨てさせた麦谷(声:ゆかなさん)や淡島(声:甲斐田裕子さん)を恨み殺します。
モノノ怪「唐傘」となった北川は、その後に薬売り(声:神谷浩史)によって事の成り行きの「形」「真」「理」が明らかにされ、斬り捨てられます。
そして、アサの方は、アサが大切に思っていた、仕事は出来ないが純真さを持つカメ(声:悠木碧さん)を守り、その後に大餅曳(おおもちひき)の儀式の題字を書く御祐筆の役割を全うし大餅曳の儀式を成功させます。
この映画『劇場版モノノ怪 唐傘』は、カメの祖母がカメに持たせた朴葉味噌のおにぎりからは良い匂いがし、大切な物が捨てられた井戸からくみ上げられる毎朝大奥が飲む水(御水様の御水)からは悪臭がするなど、対比も実はシンプルに描かれています。
大奥たちの顔が、時にのっぺらぼうに渦を巻くのも、大切な物を捨てて半ば洗脳的に大奥の場に従っている大奥たちを分かり易く否定的に表現しています。
この映画で描かれている<大切な物>とは、人との感情の交流であったり、そこから生まれる共感や思いやりなどの愛情だとも感じました。
しかし、この映画が優れていると思えたのは、ともすれば道徳的なシンプル物語構造でありながら、一方でその物語に説得力を持たせる芳醇な映像表現にあったと思われました。
アニメーションで描かれるそれぞれの場面での素晴らしい動きの描写の積み重なりは、どのシーンも圧巻だったと思われます。
また、シンプルでも一貫した物語構造によって、それらの芳醇な動きの背後に深さも内包させていたと思われました。
また物語的には、普遍的なストーリーを扱っていて、感銘はそこからも来るように感じました。
振り返ってみると、とはいえややシンプルな物語構造過ぎるかな?とは思われたのでこの点数となりましたが、物語根幹の感銘さや映像描写や物語展開も含めて、個人的には限りなく傑作に近いと一方では思われました。
ところで映画本編には直接関係ないですが、個人的には邦画の中では過去最長のエンドロールにも驚かされました。
アニメーションを含めた映画作りはやはり簡単ではないなと、この作品に関わった人々の人数の多さからも改めて感じたりもしました。