「俯瞰の物語」劇場版モノノ怪 唐傘 みぞれさんの映画レビュー(感想・評価)
俯瞰の物語
文句なしのアートワーク
ストーリーは賛否あると思います。
まず大奥が舞台ということで化猫同様の悲哀やドロドロを予想していた人にはラストが釈然としないものだったかもしれない。
以下個人的な考察です。
・大事な物を捨てる儀式
大奥に入った以上かくあるべしと圧をかけられ皆アイデンティティーを捨てるが、その先にあるものは…
・渇いた者は同じく渇いた者を愛さない
ここが物語の肝で、将軍も役目を果たすため心が渇ききっていて、夜伽に求めるのは自分を潤してくれる存在。
つまり渇いた者には出来ないので、真面目に勤めてる人ほど選ばれないという罠。
・物の怪が形を成したタイミング
物の怪の理が人への直接的な怨恨ではなく、システム自体への絶望だったと読み取れる。
・物の怪の描かれ方
人によって見えている物が違う。
怪異そのものよりも万華鏡や手毬などのアイテムに怯えていることから、被害者を追い詰めたものの正体が垣間見れる。
・ストーリー全体の考察
滅私奉公を強制されていたのに、結局選ばれ愛されるのは個性を捨てなかった人。
自分に鞭打ちひたすら耐え忍んだ先にあったのは心を失い歯車に成り果てる未来だった。
自分はこんなに我慢しているのに、あいつはズルばかりしていつか天罰が下ると思っていたのに、突き進んだ結果残ったのはずるいあいつが寵愛を受ける現実と空っぽの自分だけだった。
あの時捨てた大事なものは己を否定する象徴になってしまった。
全てに気付いた時、自分や他人に強いてきた犠牲が報われることなく取り返せもしない事に耐えられなかった。
憎悪や怨嗟など相手に向かうものではなく、後悔や絶望など己に向かってくる負の感情。
唐傘は自分のようになるなと伝えたかった。
唐傘が現世に顕現したら手が付けられなくなるのは、今まで捨ててしまった大事なものが元の所有者に絶望という形で戻ってくるから。
ラストの微笑みはシステム自体は変わらず物の怪の脅威は依然としてあるものの、新人の心の有り様に希望を見出したから。
あくまで個人的な考察ですが、周回して色々な発見をしてどんどん面白くなるストーリーだと思いました。
あと薬売りさんは問答無用で素敵なので観て損はないです。