「注文の多い料理店…❓」ザ・メニュー bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
注文の多い料理店…❓
船でしか渡ることができない孤島にある、最上級レストランを舞台にした、息詰まるブラック・ミステリー。冒頭は、曰く付きの上流階級の登場人物達に、アガサ・クリスティーの作品の様な印象を受けた。しかし、ストーリーが進むにつれて、それとは全く違う狂気に満ちた、猟奇的な展開に呑み込まれていく。
なかなか予約の取れない、高額なそのレストランに、グルメを気取る5組の客が訪れる所から物語は幕を開ける。題名通り、そのレストランで振舞われるコース・メニューは、美味しそうなだけでなく、見た目も彩も鮮やか。誰もが一度は、食してみたいと思う創作料理の数々が運ばれる。
そして、それらの料理には、シェフの拘りのテーマがあり、滔々とウンチクを述べて紹介されていくが、その意味するところは、なかなか難解。その辺りから、シェフに違和感を感じるようになる。そして、そこで働く者達にとって、絶対的な存在であるシェフに対しての献身的な態度にも、不穏な空気が漂い始める。そして、料理が進むにつれて、1人、また1人とシェフが仕掛けた罠の犠牲者が出てしまい、思いもよらない悪夢が、客に襲い掛かっていく。
ただ、このミステリーの中に込められた真のテーマは、愛情をこめて料理を作り、食卓を囲む人のお腹を満たすだけでなく、食べた時の「美味しい」という言葉や笑顔こそが『食』の素晴らしさ、ということなのだと思う。その点では、追加メニューとなった料理のシーンこそが、真の『食』として、描かれていたのだろう。
本作のヒロイン・マーゴを演じたアニヤ・テイラー=ジョイは、独特な顔立ちで、これまでも脇役として出演する作品は何本か観たが、本作では、他の登場人物とは異質な存在として、彼女の魅力を十分に引き出して描かれていた。そして、レストランのシェフには、『ハリーポッター』のヴォルデモートを演じたレイフ・ファインズが、ヴォルデモートさながらの、狂気に満ちた役柄を演じており、ある意味ハマリ役とも言える。
シェフの企みや意図が、なかなか見えない中、ジワジワと洗脳されていく客達のように、ハラハラ、ドキドキというよりは、心の内が浸食されていくような、恐怖を感じさせる作品である。