「かなり面白かったです(&個人的マイナス2箇所)」窓辺にて komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
かなり面白かったです(&個人的マイナス2箇所)
(完全ネタバレですので、必ず映画を見てから読んで下さい)
かなり面白かったです。
特に主人公の市川茂巳(稲垣吾郎さん)と高校生の女流作家の久保留亜(玉城ティナさん)との会話が心地良く、2時間20分を超える映画としては長尺でかつ淡々として進むストーリーなのに、最後まで全く退屈することなく見てしまいました。
この面白さの根幹は、私的には、主人公の市川茂巳が一見、他者に関心が欠けていて心に空虚さを持っているように描かれながら、逆に出会った全ての人々に対して丁寧に心を配りながら接しているという、矛盾めいたズレがあるところだと思われました。
この市川茂巳の丁寧に心を配る人に対する接し方は、女流作家の久保留亜に対してだけでなく、妻の紗衣(中村ゆりさん)や紗衣の母親の三輪ハル(松金よね子さん)、取材対象で友人のスポーツ選手の有坂正嗣(若葉竜也さん)やその妻の有坂ゆきの(志田未来さん)、留亜の彼氏の水木優二(倉悠貴さん)や留亜の叔父のカワナベ(斉藤陽一郎さん)、妻の紗衣の浮気相手である作家の荒川円(佐々木詩音さん)などに対しても、映画の始めから最後まで一貫していたと思われます。
この主人公である市川茂巳の、心の空虚さと、一方で丁寧な人との接し方との、どこか矛盾ある心と態度がズレたまま進む時間が、映画の心地良さの基盤だったのだろうと思われました。
そして映画のラストで、主人公の市川茂巳は、留亜の彼氏(だった)の水木優二から留亜の新作小説の感想を聞かされます。
留亜の彼氏(だった)の水木優二は、留亜の新作小説の中での主人公の市川茂巳がモデルになった人物に関する描写は、「エロい描写」であり、妻の浮気に対して感情的にならないその(市川茂巳がモデルの)人物は、「SF」的で理解出来ない人物である、という感想を述べます。
このラストシーンで水木優二が語った留亜の新作小説の感想から、留亜は、市川茂巳との関係に対してエロチックな感情も持っていたことが分かります。
しかし実際は、最後のホテルでの会話以降に留亜と市川茂巳は連絡を取っておらず、(私の解釈では)映画の中で留亜と市川茂巳は大人の関係には至っていません。
つまり、実際の留亜は、市川茂巳と男女の肉体関係にはならず、一方で、留亜が肉体関係を持っているのは(市川茂巳と全く真逆で感情的な)水木優二に対してなのだということがこのラストシーンで分かります。
しかし、留亜が男女の関係を持っていたのは感情的な水木優二でありながら、留亜が男女の関係になっていない市川茂巳への理解の方が精神的には深く、市川茂巳との関係にエロスも感じていたということが、水木優二が語った留亜の新作小説の感想から伝わります。
そして、この留亜が肉体関係ある者と、精神的な深い理解の関係ある者とが、違っているという矛盾は、市川茂巳の空虚さを救済する物語の着地になっているように思われました。
(水木優二から見れば全く「SF」だと見えても、逆にその水木優二の無理解が、市川茂巳と留亜との精神的な関係性の深さを純化します。男女の肉体的な関係性の深さとしては真逆であっても‥)
この映画ラストの、主人公の市川茂巳の心の空虚さと丁寧な人との接し方の矛盾を、留亜の精神的な深い関係性と肉体的な関係性との矛盾で救済している描写によって、この映画は優れた作品になっていると思われました。
余韻としては最高のラストだったとも思われます。
ただマイナスポイントとしては、久保留亜の記者会見の場面で、作家であればもう少し説明に言葉の表現の豊かさがあっても良かったのではないかという点が1つ。
もう一つのマイナスポイントは、妻の浮気に対して感情的にならないという主人公のテーマが、映画『ドライブ・マイ・カー』にあまりにも似ていた点が1つです。
どちらの企画が先だったのかはわかりませんが、観客としては世界的映画になってしまった『ドライブ・マイ・カー』と作品のテーマが類似してしまったのは、惜しすぎるところだとは残念ながら思われました。
しかしその2つのマイナスポイントがあったとしても、それを凌駕する素晴らしい作品だったなとは思われました。