キングメーカー 大統領を作った男のレビュー・感想・評価
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ウソみたいなホントの話をベースにした政治エンタメ。
選挙というものが理想など邪魔なばかりで、魑魅魍魎が蠢く足の引っ張り合いであることは、出馬したことはなくともなんとなくわかっているつもりだったが、その嫌な話をエキサイティングなエンタメに仕立てている手腕が素晴らしい。白と黒ではわりきれない世界で、かろうじてひとつの理念で繋がった2人の男の共闘という図式も、エンタメとしてみごとに機能していると思う。
それでいて、後半にいたるテンションの上げづらい展開もまた、フィクションのようにはいかない現実の写し絵として実に苦い。ソル・ギョング演じる国会議員のモデルが金大中、選挙参謀の役は実際の金大中の参謀だった人物がモデルというが、映画の中に描かれたウソみたいなネガティブキャンペーンの数々の大半も、実際に行われたものだという。事実は小説より奇なりというが、むしろノンフィクションとフィクションの合間を縫うような語りがスリリングだ。
あなたの傍に居たかった
ちょうどタイムリーにこの言葉を聞いた。
高市新総裁の誕生の背景に、麻生太郎の周囲への声掛けと一推しがあったという。
最高権力者誕生に影響及ぼす存在。
それを、“キングメーカー”という…。
劇中では別名になっているが、後に韓国大統領になった候補とそのキングメーカーの男の実話がモデルにされている。
なのでちと韓国近代史を把握しておかないと話に入っていけない。
全くの初見や知識ナシだと小難しいかもしれないが、近年の韓国近代史を描いた作品を見ていたお陰で時代背景の把握やリンクも出来た。
時は軍事独裁政権下の1960年代~1970年代。『KCIA』の題材でもある後のパク大統領やキム室長がモデルの人物も。
劇中ではキム・ウンボムだが、モデルはキム・デジュン。
1998年に大統領に就任し、任期は2003年まで。韓国歴代大統領でも親日派として知られ、この人の任期時に日本文化が韓国へ、韓国ブームが日本へと合致する。
韓国民主化の急先鋒でもあり、あの光州事件は与党のデジュンへの妨害がきっかけの一つという事を知って驚いた。
そんな彼の大統領候補時代に選挙スタッフとして手腕を振るったのが、オム・チャンノク。
が、彼は大統領就任時には居なかった。
その時、何があったのか…?
オム・チャンノクをモデルにし、劇中ではイ・チャンデ。
地方都市で“一時的だけ”薬剤師をしていた彼はある日、落選続きながらも国を変える事を諦めないウンボムの演説に打たれ、ウンボムの選挙事務所の戸を叩く。
政治の事など全く知らない。が、国を変えたい気持ちは同じ。
当然最初は門前払いだが、熱い思いのイレギュラーのチャンデをウンボムは気に入り、選挙スタッフに。
既存の選挙スタッフには無い奇抜な意見はあるが、政界の知識やその他諸々はズブの素人。
ウンボムから手解きを受け、才覚を発揮していく。
与党の姑息な選挙活動。対する為に、与党の選挙キャンペーンシャツを着てイメージを悪くさせる。あっちがそういう手ならこっちもこういう手。
野党総裁を差し置いて、ウンボムを含む40代議員のキム・サンホとイ・ハンサンの3人が立候補。
各々の思惑が交錯。サンホは総裁とハンサンを抱き込み優位に立ったように思えたが、チャンデもハンサンに接触し白紙投票を促す。結果過半数割れとなり、決戦投票。ハンサン側の票を多く勝ち取り、ウンボムは当選。大統領候補に。
素人から策士へ。キングメーカーの仕事ぶり。
が、二人の関係が良好だったのはここまでだった…。
与党の圧力で窮地に。そこでチャンデが考えた案が、不慮の事故を見せ掛け世間の同情を誘う自作自演。
が、野党内からもウンボムも反対。姑息な手段など使わずクリーンに正々堂々と。
その矢先、アメリカ外遊に赴いたウンボムの借住宅で爆発事件が起き、同行していた母親と甥が危うく被害に。
与党の犯行か…? しかし疑いの目はチャンデに向けられる。
チャンデを信じるウンボムだったが、問い詰めると…
チャンデは自分の犯行である事を認める。
いずれは議員を目指していたチャンデ。が、ウンボムからは準備不足と。
準備不足ではなかった。今ははっきりと。君は向いていない。
誰があなたを大統領候補にした? 国民の清き一票と答えるウンボムにチャンデは、愚かな国民ではなく私だ、と。
本音。全く違う政治信念。
それは決定的なもので、どちらかが理解や譲歩する事は不可能。
二人は決別した。
正々堂々クリーンより、手段を厭わない。
それに目を付けた与党参謀が引き抜く。
現職パク大統領と候補ウンボムの一騎討ち。結果は…。
良くも悪くも手腕を振るい、こちらを精通していた元仲間の策士が寝返った時ほど厄介な事はない。
裏方の策一つ、感情一つで政治など容易に変えられる政治の恐ろしさ。それが、キングメーカー。
大胆な脚色や劇中人物とモデルの相違もあるだろうが、安定の韓国社会派エンタメ。ビョン・ソンヒョンの上々の手腕。
ソル・ギョングが自身の政治信念と同志との絆の間の苦悩を、『パラサイト 半地下の家族』で知られるイ・ソンギュンが当初の信念から己の野心や欲を剥き出していく様を、それぞれ熱演。
政界で蠢くアンサンブル。与党参謀役のチョ・ウジンの曲者感が終盤光る。
ある時ある場所で、久し振りに再会した二人。
チャンデは政界を遠退き、ウンボムはまた落選続きだった。
和解し、相容れる事は出来なかったのか…?
ある問い。双方の答えは…。
ふと視線をやると、そこにはウンボムはおらず、チャンデ一人…。
自身の心の中で、もう一度あなたと会う事を願ったのだろうか…?
その後、ウンボム(キム・デジュン)は大統領に。
そこにチャンデ(オム・チャンノク)は居なかった。
あなたの傍に居たかった。
うさんくさい選挙参謀
史実の脚色に唸りまくり
本当は?
大義と正義
悪くはない。ためにもなる。
最高!最高だよ、この映画!!
大統領にまで上り詰める、いわゆる清廉潔白で志の高いなひとりの男と、世の中をよくしたいという志で彼と同調しあうが勝つためには手段を択ばない男、ふたりの人生を追っていく話。
鶏を盗まれてどうするかというプロローグ、それと対比するエピローグ。なんてかっこいい映画なんだろう。
韓国の政治映画に優れたものが多い背景のひとつは、長く続いた軍事政権から民主化を勝ちとった、という自負があることなのだと思う。戦争に負けたことで与えられた日本の民主主義とは、少し思いが違うのかもしれないと時々思う。
それを身につけるきっかけに優劣があるわけではない。それでも映画製作という面で両国に少し差があるのはしょうがないのかもな、とも思う。
どちらもすばらしいふたりの違いが、最後の最後まで貫かれていたことが、そしてそれをしゃれたプロローグとエピローグで見せるかっこよさに、すっかりしてやられました。脱帽!
すげえ映画だった。
心の底の深いところには、「きれいごと言いながら、都合よく使いやがって」 という思いが、渦巻いている。しかし、「それを自分の心の底奥深くに沈めて大義を語る」 ということが、これもまた大変なことなのかもしれないな、という思いもまた芽生えている。
ブロマンス
素晴らしい作品だった
見終わったあと、立ち上がって拍手を送りたい と思える内容でした。私の中では近年観た映画の中で最高の作品だと感じました。
そして、今の日本では決してこのような素晴らしい作品が昨今、近未来においておそらく作られることはないだろうという残念な気持ちもあります。
日韓の映画の中で、撮影の仕方の違いなど色々あるとは思いますが、おそらくこの構成力は出せない。出せる監督はいないだろうと思っています。
この映画を作ったビョン・ソンヒョン監督の才能と力量に大きな敬意を表するとともに脱帽します。ビョン監督のこれからのご活躍と、素晴らしい作品が作られることを楽しみにしています。
この映画は、私に「映画は芸術である」ということを思い起こさせてくれました。
この素晴らしい芸術との出会いに深く感謝致します。
ありがとうございます。
苦味が良い
日本の政治で選挙を描いた、決戦は日曜日も傑作だったが、こちらはもっと苦い。
日本では政治を扱った映画はないとか言う前に決戦は日曜日を見に行っといてください。
金大中のKTも傑作だが、この映画も素晴らしい。選挙参謀というか、政治ゴロ的な人の悲しさと恐ろしさ。頭が良すぎるというか、賢すぎると御輿として担ぎづらくなってしまい、敵を作ってしまう。
私個人は社内政治で変に相手を潰すような真似をせずき力で勝ちきりたい。相手の足を引っ張るつもりが、墓穴を掘ってしまうのは良く見かける。
日本でも実録政治映画を作ってほしい。私の興味としては小沢一郎三部作なら自民党から共産党まで描けるので面白いのでぜひ作ってほしいが、小沢一郎が存命中は難しいかな。
田んぼのなかに突っ込むことで可愛がられるのは、韓国にもあるのか笑
国政選挙、党内大統領候補者選挙、大統領選の三段構えも面白い。
ぼかしガラスや、影で語る態度も映画として今年屈指の出来。照明は女子高生に殺されたい。ウエストサイドストーリーと並んで最高の今年の映画。
日本の国会議員は全員これを観てほしい。日本の野党の負け癖に辟易している。勝気がないやつに投票するのが馬鹿馬鹿しく感じる。小さくショボい利権より、内閣担当できるぐらいの野望を持っといてもらわないと困る。下手に責任を負わないことで、ショボい利権で飯を食えてしまっているため、野望を持つことはかえって危険であると判断しているのが多くの野党政治家だと思っている。
奇策が面白い
光輝く者と影にしかなれない者
鶏の卵を隣人に盗まれたらどうするか、という最初と最後に出てくる問答と、それぞれの答えが、表舞台で光輝く人間と、影にしかなれない人間との違いを単的に表している。
光を演じたソル・ギョングが素晴らしいのは分かっていたが、影を演じたイ・ソンギュンがそれ以上に魅力的だった。「パラサイト」の時よりもずっと渋くなって、この人が出ているなら観に行こうと思える俳優がまた一人増えた。
見応えのある政治ドラマ。
実話ベースの物語なのに、ぐいぐいと引き込まれてしまう演出に感服。
韓国ではこういった良質な大人の映画が作り続けられ、それがヒットするという、実に羨ましい限りである。
作り手だけでなく、観る方も、ずっと成熟しているんだろう。
日本にもこういった作品を撮れる才能がある人はたくさんいるはずなのに、需要がないと決めてしまっているんだろうな。
良い作品を作る、それを観せる、観に行く、という努力を怠ってきた結果だとしたら残念だ。
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