劇場公開日 2022年9月30日

「『魂の悶絶❤️‍🔥』」愛してる! MoviePANDAさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0『魂の悶絶❤️‍🔥』

2022年10月10日
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鑑賞方法:試写会

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興奮

NOはGO。「ヤメてください」が「お願いします。ヤメないでください」になる世界。では、本当にヤメてほしい時には何と言えば?

音楽において売れてる事を否定的に言うロッカー。売れたくて音楽やってねえし、みたいな。よほどそっちのがダセェと思う。単なる負け犬の遠吠えというか、じゃああんたはいざ売れた時その“メガ”な状況にしっかり対応出来るのか?そう問いたい。B'zの松本さんはハッキリと言った。売れれば全てにおいて環境をレベルアップ出来、それをお客様に良い物を見せる聴かせるという形で還元出来ると。また、国民的と称されるバンドのリーダーである桑田さんはいつの時代も今のトレンドの音楽を漁り、取り込む事に必死。そして、自分が生み出した作品に対してはすぐクヨクヨし、後悔をする。もっとうまく出来たはず、と。

その点において、この映画の監督である白石晃士その人も同様。ネオホラーラジオのゲスト回でも言ってたけど、今までの作品で思い通り満足のいった作品はないと。劇中の役ではアワアワしているイメージが強い白石監督だが、本人はいたって冷静沈着だ。そして、それは自分の撮った作品に対しても。頼まれた仕事はあくまで要求を飲む。予算との天秤、妥協。それを分かった上で、今用意されている膳立てにおいて自分だから出来る事、どうすれば面白く?にいつもしっかり取り組んでいらっしゃる。本当に素晴らしいのだが、前述のふたりと白石監督の違うところ。それはそこまで売れていないという事。

どうしてもホラーのイメージは強い。ただ、サム・ライミはじめ大向うの国ではホラー出身監督が出世しまくっている。その点で言えば言い訳が出来る状況では無い。ハッキリ言って今までの大舞台で成功したと言えるものは無いと思う。ただ、それを乗り越えての原点回帰であり集大成とも言える「オカルトの森へようこそ」。そして、その次のタイミングでのこの「愛してる!」が傑作であったという事。この流れこそがドラマチックである!(もちろんクランクアップの報があったコワすぎも楽しみ)

リリースから30年近く経った2022年に桑田さんの「鏡」がCMで流れる世界線。当時そんな未来は予想だにしなかったが、それだけ収録のアルバム「孤独の太陽」が傑作であるという何よりの証明だと思う。前年の「クリスマス・ラブ」はトラック数フルに駆使した装飾にまみれたクドい曲だったのに対し、「鏡」は実にシンプルな編曲。で、当時渋いと思ってたものが現代においては不変のポップスに聴こえる不思議。ただ、その普遍性こそが彼の強みなのだ。

ボクは白石監督にもその強みが備わっていると確信している。とかくホラーを求められがちではあるが、白石監督はもうそういう時期を越えたのではないか?ホラーを求められればしっかりホラーで、しかしそれ以外のしかも装飾少なめの作品の時こそ発揮される才能。それが見事に炸裂した最新作。監督のフィルモグラフィ的に感動してしまう向きもあるが、そんな事お構いなしに素晴らしい作品だと思う。

監督が魂の解放を描くのは今回が初めてではない。今回これは日活ロマンポルノである事から性を通してではあるが、やはり魂の解放が描かれている。ただ、だからこそ例えそれがSMであってもそれに関係なく傑作を撮れる事が証明されている。まさに装飾の無い白石晃士映画。むしろこちらの方こそある意味で監督の集大成映画なのではないだろうか?

主人公の思わぬ覚醒からクライマックスにおける魂の解放は、エモーショナルな音楽も相まって心にどストレートに響く。しかし、2回観て気付いた事がある。むしろ初めに愛を感じたのは“彼女”の方だったのではないかと。その視点で観直す楽しみもあれば、ふたりそれぞれの魂と愛の悶絶にこちらの心がエレクトさせられる興奮もある。また、愛液表現はあったものの汗や身体をねじって身悶えるという様な生々しさの表現には物足りなさを感じたものの、カノン様の孤高とポップ且つ美しくといった風情が感じられたので今回はプラスに作用していたと思う。

ただ、いずれにしろこれが白石監督の「いとしのエリー」でも「真夏の果実」でも「TSUNAMI」でも無い事は間違いない。あくまで「白石晃士が日活ロマンポルノを撮ってみた!」であり、これからの白石晃士作品群こそが白石晃士ヒットソング集になると思う。最後に、予算さえ与えられれば「呪詛」や「女神の継承」より面白いものを撮れると落ち着いて語っていた監督の言葉をボクは本気で信じている。

MoviePANDA