「腹腹時計と連帯と」夜明けまでバス停で 太陽傅さんの映画レビュー(感想・評価)
腹腹時計と連帯と
タイトルからしてこれは実際に起こった、渋谷ホームレス殺人事件を題材にしたものなのは知っていました。
冒頭、犯行のシーンから始まるので、やはり骨組みは事実に基づいて描かれるのか、と思いきや最後の最後での、でんぐり返し。いやはや鮮やか。板谷由夏のお腹から取り出したのは、腹腹時計(爆弾製造の教則本)。
そして店長に対して、一緒に爆弾を造ろう!、と言い放って、ディ·エンド。
一見プロパガンダのような終わり方ですが、板谷由夏のこの台詞は、半分本気半分は連帯のメッセージですかね。
とても潔くて心が震えました。
この映画の直前に、あの足立正生の「REVOLUTION+1」を見ました。例の安倍元首相銃殺事件をメディアなどで伝聞されている内容に沿って展開していきます。
ただ主人公が、死んで星になりたいが、どんな星になりたいのか解らない、という言葉が何回か繰り返され、ロッド国際空港銃乱射事件で生き残った岡本公三のことを連想されます。
低予算で時間的にも制約があったでしょうが、映画として残念ながら観れませんでした。
半世紀以上前の射殺事件で恐縮ですが、永山則夫を題材にした映画を足立正生は1969年に撮っています。「略称 連続射殺魔」略称しなければ「去年の秋 四つの都市で同じ拳銃を使った四つの殺人事件があった 今年の春 十九歳の少年が逮捕された 彼は連続射殺魔とよばれた」です。
今では死刑の判断基準の〈永山基準〉として時々マスコミで喧伝されています。
ドキュメンタリー映画で足立監督自身のナレーションのみが入っています。永山則夫の19歳までの足跡を永山の〈眼〉に映ったであろう風景をただただ丹念に撮っていくだけの映画です。具体的な事件の顛末は描かれません。
でも感情を排したナレーションのためか、映画詩のような詩情溢れる素晴らしい作品になっていました。
実際に起こった事件を題材にしモチーフは同じでも、出来上がったものは全く違います。
社会性をもった事件と映画は、どう関わったらいいのか。「夜明けまでバス停で」には深く感じ入りました。