劇場公開日 2022年8月12日

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「ガラス細工のように無垢で繊細なブライアン」ブライアン・ウィルソン 約束の旅路 ゆみありさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ガラス細工のように無垢で繊細なブライアン

2022年8月19日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

萌える

ロック、ポップミュージックの名盤と言えば、必ず上位に挙げられる「ペットサウンズ」。これを一番に挙げ、ロックを芸術に押し上げた"金字塔"であると言う評論家さえいる。この素晴らしいアルバムを事実上一人で作り上げた天才ミュージシャン、ブライアン・ウィルソンの今を取り上げたドキュメンタリーである。彼は人気絶頂の1964年にライブ活動をビーチボーイズの他のメンバーに任せ、自分はスタジオに籠り、それまでの底抜けに明るく楽しいサーフロックとは一線を画する内省的な音楽を追求した。その結晶と言えるのが「ペットサウンズ」(1966年)である。おそらくこの頃には精神疾患(統合失調症)の症状もあったのではないだろうか。
彼は80近くなった今も、この病と戦いながら音楽を続けている。病と折り合いをつけながら音楽をやるというよりも、病と折り合いをつけるために音楽をやっていると言う風に見えた。風貌や物腰はどこにでもいるおじいさんである。天才ミュージシャンの面影などない。話の端々に、そして表情からも繊細さが滲み出てくる。ガラス細工のようだ。かつての仲間や兄弟の話になると涙ぐみ、言葉を詰まらせる。インタビュアーも古くからの友人なので、そこは心得たもので彼の心にづかづかと踏み込んだりはしない。だからこのインタビューは少々物足りないとも言えるのだが、そうしないとインタビューは続かないのだろう。それがまたブライアン・ウィルソンなのだ。我々も多かれ少なかれ彼と同じように古い傷を抱えながら生きている(歳を重ねているならば尚更)。そして彼の無垢で繊細な心の有り様が我々の弱い部分、繊細な部分に共鳴する。昔のヒット曲も素晴らしく懐かしいが、今のブライアンの内面から出てくる歌と歌声に共鳴し癒され胸を打たれるのだ。

ゆみあり